連載「実践 事例で考える 不動産コンサルティングの進め方(25)」 ~事業会社への高齢者向け住宅(含老人ホーム)提案の失敗例~
福田 郁雄 株式会社福田財産コンサル 代表取締役
第25回 埼玉県 X事業会社
~事業会社への高齢者向け住宅(含老人ホーム)提案の失敗例~
少子高齢化が進む中、アパートの需要減に対し高齢者向けの施設や住宅に注目が集まっています。「サービス付き高齢者向け住宅」が創設され、土地活用のメニューも多様化してきました。
はたして高齢者向け住宅(含老人ホーム)は企業の有効活用になりえるのか?
調査研究のうえ、具体的に企画した提案内容を紹介して、その可能性を探ってみます。
-依頼者の状況-
埼玉県のX事業会社は先代から内装関係の事業会社を経営しています。法人で所有していた埼玉県内の駅から徒歩圏の土地の有効活用について、知人を介して当社に相談がありました。現在はスポーツ施設として利用していますが、事業として考えるとあまり収益性はよくありません。施設も老朽化していくうえ、収支は人件費を払ってトントンという状態です、この先の展望は開けません。創業の地ですので、土地を売却することは考えていません。事業として成り立つ有効活用を探していました。
依頼者は…
X事業会社 (内装関係の事業会社)
Z事業部長
依頼者の要望は…
・法人で所有している1800㎡の土地の有効活用を検討したい
・今後の社会環境の変化を考えると、アパート・マンション以外での有効活用をしたい
・短期に資金が回収でき、かつ長期に安定収入が得られること
一般の個人の資産家とは異なり、事業的見地でシビアーな姿勢で検討されます。
実際の展開は…
1.現地調査と立地診断
現地はもともと事業会社Xが設立された場所で、現在は業容を拡大し、営業拠点は移転しています。土地は売りたくないので、資産の組み換えではなく、アパート・マンション経営以外で有効な活用方法を提案いただきたいという依頼でした。
以前、ある大手企業の独身寮の提案がありました。賃料は納得のいく数字だったのですが、借上げ期間が短期間だったため、その企画は見送りました。
その後、大手ゼネコンより高齢者専用賃貸住宅の提案がありました。こちらの借上げ期間は長かったのですが、採算性が合わず見送りました。これら採用されなかった提案は、実は依頼者のニーズを知る上での最大のヒントになります。
以上の見送られた二つの企画から、
・採算性を重視する(投下資本の早期回収)
・長期安定経営出来るもの
・高齢者事業に興味を持っている
というニーズが浮かびあがりました。
この条件を考えた時、「サービス付き高齢者向け住宅」の企画が上がりました。ちょうど「サービス付き高齢者向け住宅制度」が創設され、建築費の10%の補助金、固定資産税・不動産取得税の軽減があるので、利回りが上がると考えたからです。さらに新工法の壁式構法を採用すれば建築費のコストダウンが可能な事が分かりました。従来、老人ホームの利回りは8~9%であり、事業としての魅力に欠けていました。しかし、この補助金の活用と建築コストの合理化(設計や構造・構法や施工会社の選定方法)によって利回りが改善すれば、事業としての可能性が生まれます。さらには運営会社の入札を行えば、借上げ賃料も上がり、納得のいく利回りが確保できるのではないかと仮説を立てました。
その仮説を検証するために、まず現地調査及び情報収集を行いました。
その土地の近隣特性は昭和30年代に開発され始めた住宅地ということです。その当時から住んでいる方達が高齢化してきています。最寄りの駅までは徒歩8分です。周辺はスーパー、商店街、病院、学校等生活環境が充実しています。現地の近くのマンション120戸は建築期間中に完売していることから、住宅地としてのポテンシャルが高いことが分かりました。近隣には大きな公園もあります。閑静な住宅街で、全面道路の車両交通量・歩行者の交通量とも多くはありません。
周辺の社会環境としては、埼玉県は高齢者の割合は低いのですが、増加率が高い=世帯高齢化の加速度が大きいのが特徴です。敷地特性としては、建ぺい率60%、容積率200%で、中高層の建築に向いた土地です。近隣との調和や採算性を考慮しながら、最有効使用を検討しました。
オーナーニーズ、近隣特性、敷地特性を踏まえ、業務系、商業系、宿泊系、住居系、医療福祉系で検討しました。敷地整合性、集客力、立地整合性、競合性を0点から3点で評価し、総合評価の高い住居系か医療福祉系に向いていると判断しました。
社会経済環境予測としては、高齢者単身者・夫婦世帯の急激な増加に対し、施設の絶対数が不足しています。2010年で約1000万世帯ですが、2020年には約1245万世帯になると予想されています。
高齢者施設の定員が現在155万人で、65歳以上の高齢者の約5.3%しかありません。施設の多くは、今まで特養と老健で民間の参入が制限されていましたが、「サービス付き高齢者向け住宅制度」が創設され、新規参入が見込まれています。
2.サービス付き高齢者住宅
まずは、サービス付き高齢者住宅について徹底的に調べました。「サービス付き高齢者向け住宅制度」は初めて厚生労働省と国土交通省がタッグを組んだ新制度で、高齢者住まい法の改正法として平成23年4月28日に公布されたものです。大きな特徴として、建築費の補助金10%、固定資産税、不動産取得税の軽減が受けられることがあげられます。入居一時金が取れ無くなるというデメリットはありますが、今まで不明瞭であった一時金の取り扱いの問題がクリアーになったことは前進したと考えるべきです。
建築費の補助金の10%があれば、利回りが1%変わります。年度内で約325億円の予算があり、膨大です。2010年時点ではまだそれほど認知されていませんでしたが、予算枠、競合を考えると申請は早いほどいいと考えました。補助金申請は建築の契約前に行います。
「サービス付き高齢者向け住宅」にいち早く取り組んだA運営会社に、求める立地条件と賃料査定をお願いしました。
◆A運営会社 サービス付き高齢者向け住宅
・面積:延床面積1,500㎡以上。敷地面積概ね300~500坪
・エリア:東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県
・立地条件:駅より徒歩15分以内、敷地内駐車場があること、概ね敷地周辺が平たん地であること
・賃借条件
①契約期間:20年以上
②賃料目安:室数×5万円~。築年、周辺環境、他諸条件で変動
③敷金・保証金等は別途相談
④工事費(改修・新築)貸主負担の場合、工事費の8~10%の利回り保証
⑤その他、中途解約権なし、初月より賃料満額払い
A運営会社が求める立地条件に、この立地は適合しました。A運営会社もいい反応でした。
ボリューム設計を建築士にお願いし、借り上げ賃料を出していただいたところ、思ったよりも高く出てきました。建築費の概算見積もりを行い、利回りを計算すると約11%です。これなら15年で回収できます。レンタブル費は60%です。ちなみに一般の高齢者住宅では47%前後です。従来の老人ホームに比べ、サービス付き高齢者向け住宅は規定が緩やかなので、共用部分を少なくすることができ、部屋数を増やせるのがメリットです。
いい話ばかりに見えますが、調べていく中で、このサービス付き高齢者向け住宅を大手の運営会社がほとんどやろうとしていない点が気になりました。何故でしょうか?
その点について、調査すると、高齢者住宅事業の特徴ある利益の出し方に回答がありました。
高齢者住宅事業では、家賃・食費はほとんど原価でそのまま出て行ってしまいました。各運営会社の収益構造は、実は国からの介護保険サービス代行収入に依存しているのです。そのため、どれだけ介護保険代行収入が入ってくるかがポイントになり、要介護度が高い方が入居し、介護サービスを提供出来るほど、介護サービス代行収入が入ります。
サービス付き高齢者住宅の場合は、比較的介護度の低い方が入居するので、介護保険代行収入が少なくなると予想されました。
また、老人ホームの場合は、特定施設の認定を取るのが基本です。特定施設の認定をとると、一括で保険代行料が入ります。日割りや人数割で報酬が払われるので、介護報酬が読めます。事業として成り立ちやすくなり、その結果オーナーの安定収入にも繋がります。それに対しサービス付高齢者住宅の場合は、サービス個別に点数がついており、その点数によって介護保険代行収入が決まるため、数字が読みにくいのです。
この介護報酬の制度はまだ始まったばかりで、現在はまだ現役世代が沢山いるので成り立っています。しかし、今のままの社会情勢が続けば、介護保険の財源が不足するのは目に見えており、そこに頼ったビジネスモデルなので高齢者住宅ビジネスには不安が残ります。土地所有者から見て投下資本回収までに15年~20年かかり、そこまで制度が持つかという不確定要素があります。
また、サービス付き高齢者向け住宅は一時金が取れず、運営会社のキャッシュフローが悪化するので、大きな障害となっています。
また、借地借家法が適用されるので、退所していただきたい入居者に退所いただくことが難しくなると見ています。
サービス付高齢者向け住宅はまだ事業が始まったばかりなので、結果が見えていません。一時金が無く、年金だけでも入所できるとのふれこみになっていますが、年金制度そのものが崩壊しているのではないかとの疑義がある中、年金の給付が下がった場合を想定すると、当初の賃料が維持できるか読めません。
サービス付高齢者向け住宅は、従来の高齢者専用住宅の改良版ですが、高齢者専用住宅はあまり浸透していないことを考えると不安がよぎります。
建築費の補助金一割は大きいですが、そこまでして国土交通省が勧めるのは、市場が出来ていないということでもあります。本当に有利な投資で、市場原理が働けば、特典を付けなくても自然に広まるはずです。
当初の利回りはいいのですが、私自身がこれを自信を持って勧めることには躊躇しました。
今最も熱心なのは建築会社です。補助金という目玉を謳って建築受注の大きなチャンスとします。以前、特優賃でも同じような特典があり、資産家は郊外のバス便の立地にも大きな賃貸住宅を建てましたが、目論見どうりには行かず苦労しています。また、同じような徹を踏むことはできません。
従来の住宅型有料老人ホーム・介護付有料老人ホームの方が、今現在市場に浸透しているので、これらを合わせて検討することにしました。
3.高齢者事業について
ここで各高齢者住宅の特徴について述べます。「サービス付高齢者向け住宅(A運営会社)」「住宅型有料老人ホーム(B運営会社)」「介護付有料老人ホーム(C運営会社)」です。
◆サービス付き高齢者向け住宅
これまでの高齢者住宅には、「高齢者円滑入居賃貸住宅」(高円賃)「高齢者専用賃貸住宅」(高専賃)「高齢者向け優良賃貸住宅」(高優賃)といった様々なタイプがありましたが、今回の改正ではそれらをサービス付き高齢者住宅に一本化しました。
・5年ごとの更新制
・居室は原則25㎡以上の床面積
・バリアフリー化
・最低限のサービスとして安否確認と生活相談
・住居とケアサービスの提供者が同一でも別々でもどちらでも良い
・個々の居住者が自分に必要なサービスを自由に選択する
・サービスが外付けなので、運営会社の固定収入は賃料のみ
◆住宅型有料老人ホーム
・食事や見守りなどのサービスが付く
・介護は別契約で居宅サービスを利用する
・訪問介護事業所を併設し、要介護者対応のものもある
◆介護付有料老人ホーム(特定施設の認定)
・入居時に要介護認定を受けている事が条件となる場合が多い。
・費用は低額から高額まで幅広い。
・一時金を必要としないものも増えている。
・入居者は概ね65歳以上
・特定施設入居者生活介護
・住居とサービスをセットで提供する
・居住者は事業主体が提供する生活支援・介護サービスを利用する
これら3つの企画を検討し、収支計画を出し、最有効活用をご提案する事にしました。
4.基本協定書の締結
企画のコンセプトは「地域に喜ばれ、話題となる「高齢者向け住宅」事業の実施」としました。
・地元住民に長期に支持されるものとする。
・利回りは11%以上を目標とする。
企画提案の基本方針として
1.独立系コンサルタントとして、オーナーサイドに立った提案を行います。
2.会社イメージの向上につながる企画といたします。
3.地域に喜ばれる企画といたします。
4.長期的に安定収入が得られる企画とします。
5.競争原理を取り入れていきます。(施工会社、事業会社を入札で決定)
6.利回り11%にチャレンジします。(プラン、構造構法、入札、交渉により)
7.成功報酬とさせていただきます。
企画に納得されて、はじめて、進めて頂ければ結構です。
8.企画を一緒に作りこんで行きます。
まずは、「基本協定書」を作成し、土地有効使用提案の方向性を依頼者と当社で確認しました。これにより依頼者の意思が明確になり、当社と各運営会社とのやり取りがやりやすくなります。内容は下記の通りです。
1.X事業会社は後記の土地有効活用として、㈱福田財産コンサルの助言により高齢者住宅事業を検討することとした。
2.前項の事業を検討するにあたり、「サービス付き高齢者向け住宅」「住宅型有料老人ホーム」「介護付き有料老人ホーム」の三つの企画を掘り下げ、事業採算性やX事業会社の要望を基に、総合的に判断して決定する。
3.高齢者向け住宅事業を検討するにあたり、企画策定を㈱福田財産コンサルに委託し、㈱福田財産コンサルはX事業会社の意向に基づき、企画案を策定する。
4.㈱福田財産コンサルの策定した企画を実施することが確定した段階で、X事業会社と㈱福田財産コンサルは協議のうえ別途定める業務委託契約を締結し、X事業会社は㈱福田財産コンサルの企画を実施することとする。
5.施設見学
X事業会社のZ事業部長、福田、プロジェクトメンバーに加わってくれた建築士で、A運営会社のサービス付き高齢者向け住宅、B運営会社の住宅型有料老人ホーム、C運営会社の介護付き有料老人ホームを見学しました。建築士がプロジェクトメンバーに加わってくれた事により、具体的なプランで企画をつめることが可能です。
各施設を見学した時点で参考になったこと
■A運営会社 サービス付き高齢者向け住宅
・新型の壁式構法で重量が軽く、軟弱地盤でも建築可能。工期も短い。
・個室は18㎡。天井高は2400㎜
・ベッドは介護保険でリース 2,500円程度/月。(オプションが多い)
・設備でも保険が使える
・要介護2前後の方が多い。車いすの方は入居者の半分程度。(入居者の要介護度によって、収益率も変わる。)
・フリーレント3カ月
■B運営会社 住宅型有料老人ホーム
・エアコン、ベッド、寝具、カーテンは備え付け
・入居時に自分で持ち込むものは小さい家具、TV、冷蔵庫
・入退出時のクロスは清掃だけ
・床は店舗用シート床材
・スプリンクラーなど消防施設にコストがかかる
・庭はアスファルトにしてあり、車いすで移動可能
・認知症対策として1階に部屋を設けないようにしている
■C運営会社の介護付き有料老人ホーム
・2階建て、個室は18㎡弱
・天井高は低いところで2,400㎜
・カーテン、電気取り付けの費用はオーナーさん負担。交換は運営会社
・5年、10年、15年で修繕(運営会社側で)
・介護度は2が多い(年数が経つと高くなる)
・平均年齢88歳。平均5年間入居
・一時金あり。500~800万円
・家族近くに住んでいる方が6割。近隣に住んでいた方が4割。
・25年契約。
・建設協力金あり
有料老人ホームの企画についてのポイントをまとめます。
・8~9%の利回りではアパートより低い。補助金含めて11%狙いたい。
・プランニングは運営上のし易さ、動きやすさなどの動線を考慮する。
・フリーレント期間も計算しておく
・修繕費の負担を確認しておく
・建設協力金の有無を確認しておく
・特別施設の認定が取れるかどうか
6.収支計画表の作成
サービス付き高齢者向け住宅を例に説明します。「サービス付き高齢者向け住宅制度」を使用した場合の特徴は、固定資産税が最初の5年間は1/3になること。今回企画した建物の法定耐用年数は19年でと短いこと。減価償却が早めに取れることはキャッショフロー上有利です。
細かい数値は割愛しますが、結論として表面利回り10.7%、税引き後で投下資本回収に17年かかるという結果になりました。
ローンの返済は30年とし、元金均等払いとしました。減価償却に見合った返済計画とするためです。
利回り10.7%というのは、まあまあの数値が出ました。検討の土俵に乗るのではという気持ちになりました。
実は損益分岐点という考え方が重要で、一般的に賃貸住宅経営の場合、8%が一つの目安になります。8%でトントンと思ってください。9%と10%では利益に2倍の差が出ることになります。9%と11%ですと利益に3倍の開きが出てきます。
利回りを上げるための検討事項は、レンタブル比を上げる、建築コストを下げる、賃料を少しでも上げてもらうなどの方策があります。これらの少しの努力によって、大きな収益の差がつくことを理解してください。
念のために、容積率が残っているので、すべて消化したプランも検討しました。4階建てにする場合は、RCか鉄骨造になります。シミュレーションしたところ、戸数が増え、収入総額は増えますが、建築費も上がるので、実際の手残りは同じになると考えられました。ということは、利回りが下がるということになります。
また、食堂・お風呂などの設備の面積を足して入居人数で割った最低面積に規定があるので、入居者が増えた分共用部分も増やさなければなりません。戸数が増える事により、賃貸する方のリスクも増え、賃料が下がる可能性もあります。以上のことから、3階建までのプランでご提案することにしました。
7.3プランの比較検討
それぞれの高齢者住宅事業の特徴、想定収支計画、前提条件、メリット・デメリットをまとめ、Aさんにプレゼンしました。比較は表にまとめました。
A運営会社 サービス付高齢者向け住宅
想定利回りは10.7%です。ハード面では介護付き優良老人ホームとほとんど変わりません。構造が軽量なので杭がなくても建築出来るため、建築コストが抑えられる点が魅力です。借上げ契約期間は20年です。
B運営会社 住宅型有料老人ホーム
想定利回りは9.20%です。近隣のアパートとほぼ変わらない借上げ賃料でした。
特定施設の認定が取れれば、もっと賃料を出せるとのことでした。その場合はC運営会社と同程度の利回りが見込めるでしょう。
C運営会社 介護付有料老人ホーム(特定施設)
想定利回りは9.50%でした。特定施設認定が前提条件のため、B運営会社より良い数字がでました。特定施設は、総量規制があり、ハードルが高くなります。来年度から第5期が始まるので、タイミングとしては良いでしょう。一時金があり、35%償却されます。それが運営会社の利益になります。建設協力金が20%あり、その返済は家賃の中から支払われます。
特定施設認定が前提条件で、C運営会社は実績も自信もあるという回答をもらっています。問題は今期に枠があるかどうかです。
プレゼンの際にZ事業部長から下記の質問があったので、お答えしました。
Q.土地の面積は十分か?
A.敷地は個室が70戸取れ、充分です。
Q.隣に建築中の高層住宅があるが、その影響はありますか?
A.L字型にすることで、影響を最小限にすることも可能です。
Q.リスクはありますか?
A.融資返済と今後の環境変化です。今後の社会状況の変化で家賃の減収はリスクとなります。
運営会社が倒産した場合もリスクですが、他の運営会社に転貸する事も可能です。
投下資本の回収まで時間がかかるため、長期の環境変化に対応出来るかがポイントになります。
Q.借入の条件は厳しいか?
A。サービス付高齢者向け住宅は住宅金融支援機構の融資が可能になります。住宅型有料老人ホーム、介護付有料老人ホームは一般金融から借入になります。メガバンクは今不動産への融資に消極的です。地銀の方がお薦めです。
Q.申請の手続きについては?
A.特定施設は各運営会社業者が申請します。住宅金融支援機構ご利用の際の申し込みは当社が代行します。
Z事業部長の感想としては、将来の安定性ではC運営会社の介護付き老人ホーム案、収益性ではA運営会社のサービス付高齢者住宅は補助金があり面白いというものでした。方向性は良いので、確実な数字で判断したいということでした。概算で出したこの数字が得られれば、優良な計画とZ事業部長に言われました。
A運営会社とB運営会社は書面で数字をもらわないと確実な判断ができません。
まず、サービス付高齢者向け住宅と住宅型有料老人ホームのボリューム設計を行い、賃料査定を書面でいただくことになりました。建築費の見積もりも行ない、その上でX事業会社に最終判断をしてもらう事にしました。
8.意思決定をお願いする
正確な数値を出すために、プランを作成し、賃料査定を出してもらい、建築費の見積もりを取るのには2ヶ月の時間を費やしました。
最終数値を差し上げてもX事業会社から中々返事をいただくことが出来ません。そこで、進める、進めないをはっきりしてもらうために、進めるための条件を整理して出していただくことにしました。
その条件は、
1.(初年度経費等を含む)総事業費(=総投資額)の極小化(5億円代半ば程度まで)
2.1の総事業費(=総投資額)の回収目安を15年以内
3.本業の内装事業参入の担保
ということになりました。
3は別としても、1・2のハードルはかなり高いものとして出てきました。
9.結果
まず、A運営会社のサービス付き高齢者向け住宅は利回りが高いけれども、未知数な部分が多いので、見送りとなりました。
再度、B運営会社、C運営会社に借上げ賃料を見直していただき、事業収支計画を作成いたしました。C運営会社のプランをベースに建築費のネゴも行いました。
B運営会社もC運営会社も頑張って、数値を出していただいたのですが、結果的に、上記の数値を達成することはできませんでした。
Z事業部長と財務部長の双方が検討し、最終的には今回は見送りとのお返事をいただきました。Z事業部長は、現在行っている事業に多少つながるので、やってもいいのではという意見でしたが、財務部長から見ると収益性が低く、リスクが高いと判断したのです。
今の土地のままであれば、無担保で、すぐに換金出来ます。アセットのあり方からすれば、何もしないという判断も有りです。営業・財務双方の判断を聞いて、最終的に社長は財務面の数字で判断したのです。沢山のプランを描いてくれた建築士、賃料査定や現場案内をしてくれた各運営会社、建物を見積もりしていただいた建築会社には、大変申し訳ない事になりました。
10.高齢者住宅事業について
今回の企画は残念ながら見送りましたが、当社では高齢者住宅事業を否定している訳ではありません。高齢社会においては必要不可欠な器です。一つの土地有効活用のメニューとして確固たる地位を築いています。
ただ、マッチングが難しいのが問題です。
ではどんな立地が高齢者事業に向いているかと言うと、
・駅から遠く、アパート・マンションでは需要が見込まれないところ
・以前は企業の寮であったものを老人ホームへリモデリングするケース
賃貸する側は上記のような方が多いのですが、運営会社はやはり便利な立地・安い賃料・新築を希望します。事業として競争が激しくなってきているので、新築で共用施設もしっかりしており、豪華で清潔な施設を建てなくては、お客様に選ばれなくなってきています。現に寮のリモデリング物件の場合はお客様がつけにくくなってきています。鉄筋コンクリートでデザインも良く、ソフト面では食事も美味しくなど、お客様の要求度が高くなってきています。現実問題、あまりローコストだけにこだわるのは難しい状況です。
オーナー側は、
・ボランティア精神があり、社会貢献したい方(自己資金が半分以上入れられて 投下資本を10年で回収でき、かつ社会貢献したい人にはいいでしょう)
・アパート・マンション経営はすでにやっており、違う形態の賃貸業をやりたい方
・ピンポイントの供給としては、地主でかつ医者(医療法人)がやるのはいいかもしれません。医療報酬、介護保険収入、賃料とトリプルで狙えます。
高齢者向け住宅については、実際に実情を分かってやっている人が少ないのが問題です。良い面ばかりを聞いて、建築会社の言いなりで始めては、こんなはずではなかったと思うかもしれません。
11.コンサルのポイントについて
本来コンサルタントは、人・モノ・お金の全てを把握した上で、最適案を出すことをします。
人は依頼者と関係者のウォンツ、モノは不動産の特性です、金は財務診断です。この3つを立体的に捉え、課題をあぶり出し、対策案の提言をします。
今回は、単純な土地活用というモノだけのコンサルの依頼でした。財務内容、真のニーズも分からない状態でのコンサルは、真の課題が分からないままの提案になってしまいます。本来、コンサルは、財務内容、会社の意思決定機構、社風をも分かった上で、真の課題を見つけ、提案するものです。
今回のコンサルの失敗と言えば、部分的なコンサルであったということです。本来の全体的・長期的な視点で、依頼者に入りこむのがコンサルの仕事だと改めて実感し、こちらも教訓になりました。
個人に対してのコンサルも同じです。人生観、相続、家族、将来の生活設計など人のことを良く分かった上で、コンサルしなければなりません。勿論、物件スペックや財務内容を数値で判断してのうえです。
依頼者の気付いていない、真の課題を見つけ、課題を共有のうえ、依頼者と一緒に問題解決をするスタイルでなければ打率が悪くなるのです。
依頼者の感想
以下にZ事業部長の感想を付け加えておきます。依頼者の視点が見えてきます。
独立系のコンサルの利用で様々な方向から判断
今回は事業として数字の面で判断したので残念な結果でしたが、何もしないのもコンサルの一つですね。
立地について、きちんと調査した上で、提案してくれたのが良かったです。こちらもメリット・デメリットの実態を見て判断出来ました。他の会社は自分の商品を売り込みますが、福田さんは商品ありきではなくて、様々な可能性を考えた上での有効活用を提案してくれました。そこが、コンサルを利用した一番のメリットでした。土地の特性も分かって良かったです。
建築会社の提案では、良い面が強調されていますから、中立な判断が出来なかったと思います。こちらで判断するのも、もっと時間がかかったでしょう。
コンサルと言って、実は商品の売り込みというところは勘弁してもらいたいですね。
プロジェクトメンバーについて
優秀なプロジェクトメンバーが協力してくださっているなということも感じました。企画段階から、図面・ボリューム設計を行って検討してくれたので、判断がしやすかったです。また、それがとてもスピーディで驚きました。こちらもしっかりと判断をするうえでの指標を持たなくてはいけないなと思いました。土地活用としては、タイミング良く補助金の制度も有りましたし、良い企画だったと思います。
会社は、営業面・財務面など各専門部署があり、多方面から判断できますが、そういう発想を取り入れられない個人にこそ、コンサルタントを利用して欲しいなあと思いました。多方面の専門家が集結していますから。