連載「実践 事例で考える 不動産コンサルティングの進め方(40)」 ~競売直前!収益不動産の任意売却のコンサル方法~
福田 郁雄 株式会社福田財産コンサル 代表取締役
第40回 台東区 Oさん
~競売直前!収益不動産の任意売却のコンサル方法~
競売目前まで迫った時点での依頼では、依頼者は自分では何も手が打てずに真っ青になってご相談にいらっしゃいます。中には、追い詰められて視野が狭くなり、自殺まで考える方も…。
競売直前で依頼のあった収益不動産の大型任意売却の事例とその進め方をご紹介します。一時はいっそのこと隅田川に飛び込んでしまおうとまで考えた依頼者が、新居と余裕資金を得てハッピーエンドになった事例です。事例を通じて不動産業界の中で公認不動産コンサルタントマスターの果たすべき役割も読みとってもらえればと思います。
-依頼者の状況-
依頼者は…
Oさん 父 65歳 台東区に7階建て750㎡の自宅併用賃貸マンション所有
長女 28歳
母は他界し、父娘の二人暮らし
台東区のOさん、祖父の代から台東区に住んでいます。6年前に木造の自宅を建て替え、自宅併用マンションを建築しました。当初、マンションは満室で回っていましたが、2~3年経ち空室が発生すると次第にローンの返済と納税に苦労するようになりました。預金を取り崩して、ローンの支払いと税金に充てていましたが、とうとう都税事務所から差し押さえの通達が入り、銀行からは家賃の差し押さえが…。競売直前にOさんの知り合いの税理士さんを通じて当社に相談がありました。
依頼者の要望は…
都税事務所から差し押さえの通達が入りました。銀行からも家賃の差し押さえの連絡ありました。今まで娘に心配かけないようにと黙っていましたが、娘にも事の経緯を説明し、事務手続きができる娘にも動いてもらっています。金融機関や保証協会と相談し、返済の猶予などをしてもらっています。売却を考え、大手不動産業者にも相談しましたが、話に一貫性がなく信用できません。
何か妙案はありませんか?売却する場合にはどのようにしたら一番いいのですか?少しでも手元にお金が残り、小さなマンションでも買えれば後は年金で暮らしていきたいと思っています。
実際の展開は…
1.競売直前のご相談
真っ青な顔でOさんが紹介元の税理士事務所にご相談にいらっしゃいました。私も同席してお話を伺うと、正直にすべてお話ししてくれました。
自宅併用型マンションを所有して住んでいますが、税金滞納で都税事務所から差し押さえの通達が届いたというのです。住宅支援機構への滞納も4か月が過ぎ、後2ヵ月遅ければ、競売にかけると言われたそうです。
住宅支援機構の保証機関である不燃公社に相談に行かれた時、競売になった場合は、残債の1億9000万円で売れれば良いほうだと言われたそうです。確かに競売ですと、市場価格の7割程度になってしまうこともあるので、まんざら間違った話ではありません。
その場で、物件の資料や申告書を見せてもらい、収益還元法で簡易査定すると、2.3億円ぐらいではないかと答えました。私が買うなら2.1億円という説明もしました。販売戦略によっては2.5億円くらいで売れるのではないかということも伝えました。2.5億円で売れれば手元にお金が残るので一安心です。
この時点では、競売決定にはなっていなかったのが幸いでした。この後、競売になるか任意売却か、また債務超過かそうではないかで結果が変わることがすぐにイメージできました(図1)。
①は、競売になり債務超過の場合です。自己破産して債務を無くすか、または自宅等の資産を失った上に、残債の返済を続けます。
②は、競売になったが、債務超過でない場合です。自宅を失いますが、ローン返済後に残った資金で再生可能です。
③は、任意売却で債務超過の場合です。①と同じ結果となるのですが、他人に広く知られず行えることと、引っ越し代などのお金が得られるなどの点で異な
ります。
④は、任意売却し債務超過でない場合です。一旦自宅は失いますが、再生可能です。
以上の4つの結果の中で、Oさんにとって一番良い④にゴールを定めて、コンサルしていくことにしました。
なお、競売・任意売却の流れ、任売と競売の違いについては、(図2) (図3)をご覧ください。
2.大手仲介業者への不信感
当社へご相談に来る前に、ちょうど大手不動産会社からマンションを売却しませんかとのチラシが入ったので、Oさんは話を聞いていました。どうにかローンを返済し、税金を支払う為にはマンションの売却もやむを得ずと考えたからです。
大手不動産業者には「お任せください。売りたい金額をおっしゃってください。」と言われたそうで、素人の一方的な希望で2.9億円とお話ししたところ、「では、それで売りますのでお任せください。」というものでした。こんな適当な感じで売値を決めてよいのかなあと漠然と不安はあったそうですが、大手不動産業者の言うことだから大丈夫だろうなあと思ったそうです。
専任媒介契約を結んでお任せしたそうですが、しばらく何も反響がない状態でした。やがて、買付証明書というのを持って来られたとのことですが、金額が2.1億円で、買主は再販業者と見られるものでした。2.9億円という金額はどこへ行ってしまったのでしょうか?
もう一社、仲介しますとの会社がありました。それは建築を担当した会社で、賃貸管理をお願いしている会社です。この会社はオーバーローンで融資の停止条件付の買付証明を持ってきました。「お客様がいるので任せてほしい」ということでした。こんなことになったのも、もとはと言えばこの会社のおかげです。今更なにをいわんやという気持ちでした。
最初の話とのギャップにOさんは驚きましたが、自分は不動産の素人なので、どうしようも出来ないという思いでした。また、情報をオープンにすると希少価値が無くなり、価格が低くなるという説明を不動産業者から受けました。Oさんは何となくおかしいなと思いながら、他の業者も同じ様な説明をするので、本当だと思っていました。
このままでは、残債以下でしか売れず、自宅を失う上に本人に借金だけが残ります。Oさんは、もうどうにでもなれという思いの中、当社へ相談にいらっしゃったのです。
3.業務委託契約書締結
Oさんにとって一番良いゴールをお話し、(図4)のスケジュール表に基づき説明しOさんもその流れにご納得いただけました。
ポイントは
・販売戦略を練り上げ、なるべく高く売却する
・手付金で税金の滞納を完済する
・残った資金で新しい自宅を購入する
・余裕資金が生まれたならば、マンションをもう一つ買い、賃貸し賃料を得る
そこで、Oさんと業務委託契約を締結しました。内容は下記で、今後行なう対策を具体的に記載してあります。
不動産コンサルティング業務委託契約書 抜粋
(業務委託)
第1条
甲は乙に対し、次の業務を委託し、乙はこれを受託した。
①甲の原契約解除に関する、全ての交渉および手続き
・都民住宅解除に関する事項
・住宅金融支援機構解除に関する事項
・不燃公社との保証契約解除に関する事項
・○○ノンバンク銀行との契約解除に関する事項
・○○賃貸株式会社との管理契約解除に関する事項
・その他上記以外の契約等の解除に関する事項(火災保険等)
②末尾記載の不動産の販売戦略立案および販売業務
・売却価格の査定(収益還元法、取引事例法)
・販売戦略の立案(販売方法、広告、スケジュール)
・買主との交渉や取りまとめ
・決済、清算業務
・賃貸契約等、地位の承継手続き
4.なぜ、任意売却に至ったのか
不思議であったのは、都心の優良立地で、特優賃(都民住宅)を利用しているのに、なぜ競売寸前に陥ったかということです。
まず第一点目にあげられるのが、特優賃(都民住宅)特有の制度的な側面から生じる点です。
都民住宅とは国の「特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律」(平成5年7月施行)を活用し、広さ、設備など一定の基準で建設された、中堅所得者層向けの良質な賃貸住宅です。
国と東京都から入居者の家賃負担を軽減するために建設費と家賃の一部補助が行われている住宅(都民住宅A型)と建設費の一部補助が行われている住宅(都民住宅B型・都市型民間賃貸住宅)があります。(※現在、都民住宅の新規建設は行っていません。)
Oさんも戸当たり100万円の補助金を受け建設していました。
一方、制約もあります。
礼金、更新料が取れない(管理会社にとって収入源がなくなるので客付の動機づけが働かなくなる)
入居者の所得制限があります。所得の高すぎる人は入れません。逆に低すぎる人は都心の賃貸マンションの家賃を支払うのは無理です。市場的には大変狭い所での賃貸経営を行う環境となっていました。
空室が出ると大変です。リーマンショック以降、特に3.11以降は所得と賃料の下落が著しく、通常、賃料設定を下げなければ次が埋まりません。ところが、賃料も都の認可制になっているので、おいそれと自由に下げるわけにはいきません。入居者が見つかったとしても、従前の設定賃料より下がることがほとんどです。入居者が見つかってから申請している間に一か月もかかるとなると、入居者も待ちきれなくなって他の賃貸マンションに行ってしまいます。
となると事前に新賃料の申請をしておかなければなりません。この間一か月は募集が出来ません。募集できたからといって、上記のこともあるのですぐに入居者が見つかるとは限りません。
空室が出ると、家賃の半年分くらいの損失になっていました。おおざっぱに言うと、原状回復費用1ヵ月分、不動産管理会社への広告料1ヵ月分、空室期間4ヵ月分の合計半年分です。家賃が約13万円なので、入居者が出ると約78万円の損失が出ているという状況でした。これが、3~4件続くと資金がショートすることは計算するまでもなく明らかです。
都としても制度が現在の経済環境変化に合致していないことも認識しており、もはや新規の受付をしていません。また、所得制限の規制も個別申請で緩和してくれています。また、賃料の改定の申請に対しても、なるべく早く回答するようにしています。
また、都民住宅による面積制限も賃貸経営環境を悪化させる一因でした。良質な住宅を供給するという大義があるため、どうしても専有面積を大きくすることになります。ところが、専有面積を大きくすれば建築費は高くなるものの、所得が増えない入居希望者に対して、高い家賃の設定などできません。当然、利回りは下がります。(ですから戸当たり100万円の補助金が出るのですが)
都も住宅金融支援機構も採算性を審査する立場では無く、制度上の基準を満たしているかどうかだけを見て認可や融資を判断しています。
このあたりは、素人の建築主には分かりにくい話だったと思われます。
5.甘い事業計画だった自宅併用マンション建築
なぜ、この様な都民住宅を建築したのか、そこにはOさんと不動産業者とのお付き合いがありました。Oさんは祖父の代から台東区に住んでいます。長年、隣地に貸していた20坪の土地が、とある事情で返ってくることになりました。所有しているだけで固定資産税がかかるので、営業にきた不動産業者にお願いして、しばらくは100円パーキングとして活用していました。
その後、その営業が盛んに駐車場と自宅を併せて建て替えを勧めてくるようになりました。その営業さんは、Oさんの仕事終わりに自宅で待ちかまえていて、毎晩晩酌につきあいながら話をしたそうです。ちょうど木造の自宅も老朽化していたこと、また日中はOさん、娘さん共に働いていて留守がちで一軒家では物騒なことから、Oさんは建て替えに興味を持ちました。
ただ、元手となる資金がないので、本当に建築出来るのか心配でした。そこに、提案されたのが都民住宅です。建築費の一部に東京都から補助金が出ます。「1部屋約100万円の建築費の補助金は魅力的に思えた」とおっしゃっていました。
また、融資についても住宅金融支援機構が長期の固定金利で貸してくれるので、安心だとの説明を受けました。また、不足する部分は銀行が貸してくれるので大丈夫だと説明を聞いていました。ところが実際には銀行の融資が受けられず、ノンバンクで4%台の高金利の15年ローンで借りていました。住宅金融支援機構の金利も固定ですが、1本は3%弱、1本は3%強です。35年ローンなので返済は少なくなるのですが元金はなかなか減りません。
コンサルタントから見ると、とんでもない資金計画です。なんだか、無理やり建てさせられてしまったのかなあと感じます。(もしくは腕利きの営業マンだったのかなあ)
最初のうちは満室で、問題なく過ぎたのですが、2~3年経つうちに問題が出てきました。ほぼローンを組んで建築したので、月々のローンの返済は約90万円です。満室で月額130~140万円の家賃が入ってきますが、ギリギリです。4~5室空室になったら、一気に火の車です。最初ローンが支払えない分は蓄えから払っていきました。自分でどうにか出来ることでもないですし、その内に何とかなるだろうと思っていました。その内に蓄えも底をつき、ローンの支払いが遅れ、税金滞納が始まりました。そして、差し押さえの通達が来たのです。
今考えると都市銀行での融資組めなかった時点で、この資金計画に無理があったということに気が付けば良かったのですが、その時は、それを言い出せる雰囲気ではなかったとOさんはおっしゃいました。
また、建築計画にも無理がありました。ワンフロアー2戸のペンシルビルです。戸数が少ないわりに共用部分の管理にお金がかかりすぎるのです。
当初の資金計画書はバラ色でした。将来のことは分からないかも知れませんが、数値のシミュレーションは随分甘いものでした。(建築業者の立場に立てば、売るためにはやむを得ないかもしれません)
6.少しでも高く売るための戦略立案
マンション経営が苦しくなった理由は様々ですが、コンサルタントの仕事はその理由を考える事ではなく、その状況を最善の改善に導くことです。そのためにまずは、なるべく高い金額でマンションを売却する必要があります。ただ単に再販業者に売却したのでは、手元にお金が残らないので、収益不動産特有の売却方法と戦略をたてました。
収益不動産の値段は収益還元法で決まります。つまりを年間家賃収入が物件の価格にダイレクトに反映されるのです。高く売却するためには、満室であることが大きなポイントです。とにかく入居させなくてはいけないので、すぐに都庁に申請して、家賃を下げることにしました。とにかく満室にして、見栄えを良くして高く売る作戦です。
専任媒介をしている大手不動産業者との契約期間が終わるのを待って、専任媒介の契約を結びました。
大手不動産会社が作成した販売図面を見ると、マイホームの図面のようで、収益不動産売却に不慣れな方が作成したようでした。そこで、収益不動産を購入する投資家目線で作成し直しました。
価格と共に「満室時想定表面利回り7.8%」を掲載し、固定資産税・都市計画税も載せました。ちょうど満室になったので、「○月○日現在満室」とういうフレーズを使用しました。
・築5年の築浅ファミリーマンション
・「都民住宅」の認定付きマンション
・○○駅3分の駅近マンション
・「東京スカイツリー」の迫力ある眺望
・アーケード商店街近接
などの分かり易いキャッチフレーズも掲載しました。
売却後もしばらくはリースバックしてOさんは自宅部分に住み続けることにします。家賃は月額25万円です。これは、大手不動産業者が査定した額を使用しました。Oさんは今までは家賃を払わずに住んでいたのに、これから家賃を払うのは抵抗もありますが、その家賃の値段によって利回りが高く見えることを理解すると納得してくださいました。
図面を作成し、レインズ、アットホームに情報をオープンにしました。すると、すぐに反応があり、約一週間で物件確認は82件の問い合わせと、11件の購入申し込みが入りました。
物件確認のあった業者さんにすぐにFAXできるように、案内図・公図・謄本・平面図・レントロール・現況実測図・確認申請書・検査済証・固都税課税明細書・管理委託契約書・業務委託契約書・三者協定書・消防検査結果通知書・賃貸借契約証書を用意しました。
競争原理を働かせて、11件での競争になったことにより、価格は満額で、その中から条件のよい買主を選ぶことができました。
このように大きな反響があったのは、値づけによるところが多いと思います。電話応対をした社員によると、「高くもなく安くもなく良い値づけですね~」とわざわざ感心の感想を言われていく業者さんが多かったのです。
レインズ・アットホームには、売れていない物件がずっと掲載されています。これは、商品になっていないからです。商品になるまで価格を下げて、その価格帯で一番高くするのが良い値づけです。そこの勘所は数をこなして見ることによって鍛えられます。いわゆる目利きというものです。多く見ることによって、利回り・築年数・希少性などの要因を自分なりに落とし込みます。
一般的には売主は高めに値段を出して、買主は指値をすることを考えますが、今回は競争が激しかったので、多くの購入希望者が買付証明の金額を出しなおし満額を提示してきました。
都庁の担当者の方は、そんなにすぐ売れるものですか?とおっしゃっていましたが、適正価格で売りに出すこと、つまり商品化して売りに出せば、不動産というのは意外に流動性が高いということを証明することができました。
7.購入者決定
11件の申し込み者の中から購入者を選ぶ時は、まず都の意向を優先しました。都民住宅は継承され、今後も都とのやり取りが継続するからです。その点を理解してくれる方に売却して欲しいというのが都の考えです。
具体的には、
・長期保有目的(転売NG)
・都民住宅の理解者
・相続対策でないこと(直接経営のできない高齢者はご遠慮いただきたい)
・資金が確実な方
価格はほとんどの方が満額近かったので、都の意向に近い方に決定しました。
長期保有を目的とする、不動産会社を経営する方です。不動産業者の方の多くは安定した収益不動産が持てるようになることを目的にしている方が多く、仲介や開発などの単発の利益とは別の安定収入を求めています。
競争原理を働かせたことで、不動産について良く分かっている後のクレームの少ない人で、資金的に余裕のある良い買主が見つかりました。
8.都民住宅売却のための手続き
売渡承諾書には次の条件を付けました。
・境界確認書付きの確定測量図を交付します
・売主の住戸は月額26.6万円で売主・買主で賃貸借契約を結ぶこと。
・「都市型民間賃貸住宅」の地位承継をすること。
・東京都と台東区による売買の承認が得られることを停止条件とすること
・「認定計画の遵守等に関する協定書」の地位承継の承認が得られることを停止
条件とすること。
・現況有姿売買とすること。
・瑕疵担保責任免除とすること
都も今回の件については協力的でした。本来なら都民住宅の契約解除はありません。やむを得ない事由ということで、「都市型民間賃貸住宅建設等補助事業中止のお願い」というような形で嘆願書を提出し承認をいただいたということです。
各種差押の資料や確定申告書の提出、そのうえでキャッシュフロー表を作り、継続できない根拠を証明する必要がありました。
ポイントは「認定計画の遵守等に関する協定書」の地位承継でした。次に購入される方が、この建築主、管理会社、都との間の三社契約を継続して遵守するということです。たまたま、今回は不動産に詳しい方が購入者でしたが、一般の方ですと煩雑な手続きに思えたかも知れません。
蛇足ですが、都税の滞納があったため、道路の官民査定が受け付けてもらえませんでした。手付金で都税を支払ってからの道路の官民査定を行うという順番があることを覚えておくと良いと思います。
9.不動産業界問題点と公認コンサルティングマスターの意義
Oさんのお話しを聞いていて強く思ったのは、不動産業界や建築業界が非近代的であるということです。
不動産業者の一貫性のない説明、建築業者の契約までは調子が良く、その後は知らん顔。おそらく一生に一度きりしかない取引なのでその場限りの対応になりがちです。一般の小売ならリピーターになってもらうために継続的なサービスをするし、調子の良い話もしません。
不動産業者のとりあえず専任媒介契約を取り、身内だけでお客様を探そうとする姿勢も良くありません。結局は身近な買主の方を向いて、売主を説得しようと試みます。誰のための代理人なんでしようか?両手取引ということが可能な日本の法制度では、双方代理という論理的に破綻していることを涼しい顔をして行うことができます。不動産業者の方が悪いのではなく、制度や業界が悪いと思った方が正解だと思います。
建築業者しかりです。見せていただいた事業計画書は分厚くて体裁は立派ですが、中身がとんでもありません。経費率を10%程度しか見ていません。新築の新しいマンションでも20%はかかるはずです。ましてやペンシルビルなので経費は高めになります。良い景色を見せ、とにかく受注したいという意識が見え隠れします。
こういう状況なので、公認不動産コンサルティングマスターの存在意義があると思います
Oさんに「あなたが一番正直で分かりやすい」と最初に言われました。私は、何も特別な事を言ったわけではありません。それだけ、一般の方に分かりづらい説明をする業者が多いということなのでしょう。そして、その説明をした本人がきちんと理解しているかも不明です。
このように言われるのが、不動産コンサルティングマスターの求められる資質ではないでしょうか。
10.依頼者のその後の生活
無事に決済が終了しました。Oさんと娘さんはしばらくそのまま自宅に住みましたが、その後現在の自分たちの状況に合わせたマンションへ引っ越しました。
祖父の代から引き継いだ土地を手放すことにはなりましたが、Oさんは後悔していないそうです。借金のない安らぎの中で、やっと普通の生活が出来ることを喜んでいます。
セールス&リースバックでそのまま売却物件に住みながら、気に入る物件が見つかるまで、ゆっくり探せたのも良かったです。
確定申告が終わり、新しく取得したマンションの不動産取得税が固まり、余剰資金が確実に残るということが分かったら、次は私設年金になるようなマンションを購入する予定です。
依頼者の感想
以下に依頼者Oさんの感想を付け加えておきます。依頼者の視点が見えてきます。
テント生活になるかも…
マンションを売却してもローンの残債が残ると聞いた時は、娘と一緒に上野公園でテントを張って生活することを真面目に考えました。専門家・銀行の人が言うことなので間違いがないと思いましたし、自宅を手放してもローンが残る状況は、もうどうにもしようがないと信じていました。
今、こうして新しいマンションに引っ越せて、現金が残っているのが夢のようです。親から引き継いだ土地を売ることになりましたが、ここが終の住処であることに満足しています。借金がなくなって、本来の生活に戻れた幸せを感じています。
娘に住まいという資産といくらかでも結婚資金を残せたことが何よりです。福田さんのお陰で親として最低限のことが出来たと思っています。これから先、気を引き締めていこうと思っています。
業者の話に不信感を…
ープンにすると希少価値が下がって、価格が低くなるという説明を受け、素人だからそれが本当だと思っていました。ところが、実際広くひろめた方が、価格が高くなりました。あの人たちが言っていたことは何だったんだろうと思いましたね。
福田さんの話を聞いて、「一番正直で分かりやすい」と思いました。素人の私にも分かりやすいように噛んで含めるように優しく説明してくれましたのもありますが、何よりも話の筋が通るんです。
売買契約をした時は、実は怖くなったんです。手付金1千万円を現金で受け取ったので。緊張はしましたがこれで話が進んだなと実感でき、その後は一安心できました。
人に恵まれました
知り合いの税理士さんや、福田さんなど人に恵まれたなと思います。娘が一緒に話を聞いたり、手続きへ行ったりと協力してくれたのも心強かったです。
物件購入者の不動産会社さんも良い方でした。木造の自宅の時の床柱を飾り彫りにして、マンションの自宅部分に組み込んでもらったんです。大正時代の祖父の代から引き継いだものです。引っ越してしまいましたが、これを今後リフォームの際に必要なくなったら譲り受けたいとお願いしたら、快く受けてくださいました。大変ありがたいです。