福田 郁雄 株式会社福田財産コンサル 代表取締役
第11回 東京都 Mさん
~定期借家権を利用して前例のないオーダーリースホームを提案~
東京都都下にお住まいのMさん。祖父から広大な農地を相続しました。農業を続けていくことには限界を感じ始めていたので、アパート経営やロードサイド店舗の経営を独学で開始しました。その後これから少子化になることを考え、アパートを増やし続けることに疑問を感じ当社へ相談。前例のないオーダーリースホーム(定期借家権を利用したマイホーム型貸家建築)に挑戦し、土地所有者・借主ともに満足のいく土地活用が出来た事例を紹介します。
-依頼者の状況-
依頼者は…
Mさん63歳。
資産内容は…
東京都都下に
①自宅 約600坪
②農地 約1,200坪
③アパート 二棟
④ロードサイド店舗 一店舗
依頼者の要望は…
①現在アパートを二棟所有。このままアパートを増やし続けることに不安がある。それ以外の土地活用を提案してほしい。
②相続税納税用の土地を残しているが、土地価格が下がり相続税も減ってきている。土地活用をしても納税に困らない状況にまでなりました。借金をしなくても良い土地活用で、ユーザーの方にも喜んで頂ける方法を探している。
①現在アパートを二棟所有。このままアパートを増やし続けることに不安がある。それ以外の土地活用を提案してほしい。
②相続税納税用の土地を残しているが、土地価格が下がり相続税も減ってきている。土地活用をしても納税に困らない状況にまでなりました。借金をしなくても良い土地活用で、ユーザーの方にも喜んで頂ける方法を探している。
実際の展開は…
東京都都下 Mさんの場合
1.先鞭をつけたアパートとロードサイド店舗
Mさんは東京都の都下に広い土地をお持ちです。お父さんが1歳のときに戦死されたため、お祖父さんから昭和33年に農地を直接相続されたのでした。
「私が相続したころは、農地は農業を営む上では大切な資産ですが、それ以上に利益を生む資産であるという認識はありませんでした。そんなわけで家督相続もスムーズに進んだのです」。
しかし、当時は時代の転換点でもありました。「このまま農業だけで食べていくのは大変だ。何かを始めて兼業農家としてやっていく必要がある。しかし、何をやるかが問題だ」というのが、当時のMさんの問題意識だったそうです。
そして実際にMさんがアパート経営を始めたのは、周辺の農家の中でもずいぶん早い取り組みでした。農協に不動産部門が作られる前のことです。
そのころハウスメーカーの相談会に参加したMさんに、講師である税理士はこう言ったそうです。「普通の会社でも資産は何十億円あると、会計士を頼みますよね。農家は、資産がいくらあっても、何もしていない。会社と同じように、資産管理と活用に真剣に取り組むべきでは」と。
「その言葉に、啓発された」とMさんは言います。
しかも、農業を営んできたMさんにとっては、次のようなことも魅力でした。「農業は天候に左右されます。せっかく一生懸命つくった作物が、収穫前に台風で全滅になったりする。その点、アパートは天候にも左右されず安定した収入が得られることが、いいと思いました」。
こうして建てたのが6世帯1棟のアパート。資金は全額、借入です。当時は土地活用のハウツー本などもまだ存在していません。利回りなども自分で勉強しながら計算してのことです。その意味では、本当に勇気のある第一歩でした。
その甲斐があって、このアパート経営は軌道に乗っていき、近隣からも多くの方が見学に見えました。それだけ、Mさんの取り組みはチャレンジングだったのでしょう。
そして、この1棟目のアパートの借入金を全額返済し終えた時点で、Mさんは2棟目のアパートを建てる決断をします。その2棟目が順調に経営されるようになって、「このまま、アパートを増やしていくだけでいいのだろうか」という疑問がMさんの頭には、浮かびました。
「これは農家の発想なんです。農業は1つの作物がだめになっても暮らしていけるように、複数の作物を作付けします。それでリスクヘッジをするわけです。その発想が、土地活用をしていても自然に、にじみ出てきたのだと思います」。
そして色々と検討を重ねた結果、平成6年に始めたのがロードサイド店舗です。これは土地所有者と借り手が共同投資するオーダーリース方式です。
借り手は好みの設計・デザインの建物を土地所有者に建ててもらい、それを賃貸します。その際建築費を借り手が土地所有者に建設協力金として預託します。土地所有者は建設協力金を分割して借り手に返済するのですが、家賃が入ってくるので相殺する形になります。したがって、表向きの返済は生じません。
土地所有者からすれば銀行からお金を借りることなく、賃貸物件を建設することができ、借り手からすれば土地を取得することなく、自分の好みの建物に入居できる優れた方式と言えます。
土地所有者は土地だけを貸すのに比べ、収益が高いことや相続税の節税になるため、人気のあるロードサイドではよく利用されています。Mさんの借り手は酒のディスカウントショップ。賃貸借期間は10年です。借り手が業績不振となり、賃料が滞る場合があるので、借り手の見極めは大変重要です。Mさんは賃貸借契約の継続が困難となった場合、建設協力金の未償却残を放棄してもらうことによって解約できる手立ても打っていました。
理想的な土地活用ですが、デメリットをあげるとすれば、駐車場をゆったりととり、広い敷地に平屋の建物を建てるので、土地利用効率が悪いことです。相続の時に物納が困難であることもデメリットといえるでしょう。
賃貸借期間が10年目を迎え、更新の時期が来ました。契約を終了させることも出来ましたが、安定した収入が無くなるのは困るので、継続して賃貸することにしました。
2.定期借家権を利用、資金不要の戸建借家を建築
それからしばらくは、税理士のアドバイスもあって、Mさんは新しい取り組みを控えていました。
そんなときに、私がMさんと知り合うことになったのです。
きっかけは、当時、住宅メーカーに在職していた私が企画した「オーダーリース方式」による土地活用セミナーの案内をご覧になったことでした。
当時Mさんは、相続税が大変になることが予測されるため、物納のための土地を更地で残しておられました。そこで、まずは現状分析ということで、相続税の試算を行ってみました。その結果、土地価格が大幅に下がっていたため、相続税が思ったより少なくて、別の土地の物納でなんとか相続税の支払いが可能であると判断したのです。
この判断をもとに、「新しい土地活用ですが、オーダーリース方式の借家経営を検討してみてください。この敷地は開発して良質な住環境を整え、一部に自宅を建てたらいかがでしょうか?」と、Mさんに提案したわけです。
オーダーリース方式は、店舗ではごく一般的な方式なのですが、住宅では前例がありません。しかし、これを住宅で行えば、土地所有者にとっても、借り手にとっても魅力的な賃貸住宅が可能になります。
一般の賃貸住宅は戸建であるにせよ、お仕着せのものですからマイホームのように自分の好みのデザインや間取りというわけには行きません。かといって、マイホームを建てるには、毎月のローン返済が大変です。しかも毎月過大な負担を強いられれば、人生を楽しむこともできなくなります。
「これからは所有することよりも利用することの方が大きな価値を持つはずだ」、という私なりの時代に対する「読み」がありました。
オーダーリース方式の賃貸住宅は、具体的には借り手が保証金をオーナーに預けます。そしてその資金でオーナーは借り手の好みの家を建てます。逆にいえば、保証金の額は借り手の建てたい家によって異なることになります。高い家を建てたければ保証金も高くなりますし、安い家で済ませるのであれば、保証金も安くて済むわけです。
この家を25年の定期借家権で賃貸するのですが、保証金は毎月の家賃から均等に差し引かれるので、入居者の負担は軽くなります。保証金を預かるメリットがあるので、家賃は相場よりもディスカウントしています。
つまり入居者にとっては、購入するよりもはるかに軽い負担で、25年間自分の好みの家に住むことができるわけです。
最近では、将来は親の家を相続することが分かっている人も多くなっています。少子化で、夫と妻がそれぞれ1軒ずつ相続することも珍しくなくなります。そういう人たちにとっては、相続するまでの間、25年間程度、好みの賃貸住宅に安く住むことができればいいはずなのです。
そしてオーナーにとっては25年間の定期借家ですから、空室リスクを回避できます。しかも、25年後には明け渡すことが法律で定められていますから、再活用の妨げになることもありません。
このように双方にとってメリットのあるシステムであることを、Mさんはこのセミナーに参加して「ピンと来た」そうです。それも、アパートとオーダーリース方式の店舗の両方を経営されていたからこそ、ではないでしょうか。
そうして、2区画でこの方式での活用が始まりました。保証金の償却を除いた純賃料は2棟で月額18万円です。当初は6区画を予定していたのですが、そのうちの4区画は購入希望が強く、また、Mさんも自宅建設資金が必要であったため、売却に応じた結果です。
売却資金は息子の自宅とMさんの自宅の建設資金に充当しました。「自宅建設は消費です。だから、借金で建てるのには抵抗があるのです。」とMさんのポリシーは明快です。
なお、本敷地は畑だったので開発を行う必要がありました。戸建住宅を8棟建てるための宅地開発計画を申請しました。造成工事については業者任せだと費用が不明確なので、開発申請・分筆・造成工事を分離発注することにより、適正価格で行うことができました。道路幅なども役所との協議により、最小限に出来たことに対しても満足しておられます。
役所としては財政や住民のことを考え、色々な指導をしてくれるのですが、土地所有者が過分な負担を強いられることに対しては、信念を持って協議することが必要です。
ちなみに入居者の一人はこのように語っています。「私は今35歳、定年後は田舎の実家に戻ることにしています。その間、快適な住宅に安く住めればありがたいと考えたのです。イザとなれば転貸もできますし、土地を購入するリスクは大きすぎるからです。金利負担もバカにできないので、高額な保証金でしたが思い切って決断しました。」
オーダーリースホームのメリットをまとめましょう。
借主は①建築費だけで庭付きの一戸建ての豊かな生活ができます。②地価下落による土地資産価値の目減りのリスクが回避できます。③土地を取得するための資金が不要なので、借金やその金利負担がありません。④土地も建物も所有しないので、固定資産税の負担がありません。⑤自営業者であれば、賃料の経費化ができます。⑥転貸することも可能です。
土地所有者のメリットは①空室の心配が不要です。入居者が決まってから建築する上、20年30年といった長期の契約ができます。②アパートと同じ節税効果が得られます。建設協力金の償却残は債務控除ができます。③固定資産税評価額が1/6になります。④預かった建設協力金は無利息で調達した資金となります。⑤前払いで賃料を貰っているのと同じ効果があるので、賃料の滞納の心配が少なくなります。⑥定期借地権と違い50年以上にしなくて良いため、期間が自由に設定できます。⑦建物修繕費などの負担がありません。
3.住環境を考え、街づくりで差別化
現在、Mさんは、18世帯のテラスハウス式のアパートを建築中です。
「実は10年前に、少子化が進行するので、もうアパートは増やさないと決めていたんです」。そのMさんがアパートを増やそうと決めた理由は、豊かな住環境を守りたいという思いです。その土地は、ロードサイドであるため、「店舗にしないか」という話もたくさんありました。しかし、せっかくの静かな環境が、店舗にしてしまうと損なわれてしまいます。
店舗と住宅のメリットとデメリットを、家族でよく話し合った結果、この住環境が末永く守られるようなアパートがいい、という結論に達したのでした。
合理的に考えれば断然、店舗の方がリスクは少なく収支も良いのですが、ご子息の住環境優先の意見にしたがったわけです。
18世帯もあるアパートですから借入金も1億円を超えます。だから、20年でも30年でも長く住環境が保たれるようにしたいと、敷地の真中にはコミュニティスペースも設けました。銀行は、「スペースがもったいない」と言っているそうですが、これもMさんの価値観に沿った選択だと、私は思います。
こうして現在、Mさんは、アパートとオーダーリースの店舗、オーダーリースの住宅を組み合わせて経営しています。
Mさんは研究熱心なので資産を積極的に組替えて、都心の物件を持つという選択肢もご存知でした、しかしMさんの場合は、それをしないで自分の土地を有効活用していくという方法をとりました。その理由を、「地元にこだわりがあったからね」と語られていますが、やはり土地活用は自分の価値観に沿った方法でなければうまくいきません。
勉強熱心なMさん、選択のモノサシができていたからこそ、これまで時代の流れに乗った土地活用に成功されてきたのだと思います。今ではMさんは友達との交流も多く、ゴルフとフルート演奏を楽しみながら、まだまだ長い充実された余生を楽しんでいます。
依頼者の感想
以下にMさんの感想を付け加えておきます。依頼者の視点が見えてきます。
前例のないオーダーリースホームを経営して
借り手は自分好みの家を建てられ、貸し手は保証金も入り、25年間安心して土地活用が出来る。店舗のオーダーリースをやっていたので、これはいい提案だとピンときました。実際、借り手の方にも満足して頂いていると思います。
自分の価値観・意見が重要
都心の他の資産に組み替えるなどして、もっと収益の上がる提案もしていただきました。が、先祖から譲り受けた土地を大切にしたいという私の気持ちを福田先生は大切にしてくださいました。
また、コンサルタントや税理士さんそれぞれ貴重なアドバイスをくれます。しかし、それぞれに違うアドバイスであることも少なくありません。だから、どのアドバイスに従うかは結局、自分で勉強して、判断しなくてはならないのです。その意味では、最後は自分の選択になります。
現在の生活について
時代も変わり、あのまま農業は続けられなかったと思うので、対策を打っていって良かったと思います。今は、息子にアパート経営などは譲って、趣味を楽しんでいます。息子は自分なりの意見も持っているのでまかせています。
コンサルのポイント その31 なぜ、不動産の相談を不動産業者にしないの?
先日、知り合いの税理士さんがこんな話をしてくれました。「うちのクライアントは資産家の方が多く、不動産の相談を良く受けます。意外にも資産家は相談できる不動産業者がいないようですね。」資産家は不動産の相談を不動産業者にではなく、税理士や銀行員や弁護士に相談しているのです。不動産のプロでない人々に相談がされているのは何故でしょうか?
このことは、不動産業界が最も反省しなくてはならないことです。ひょっとしたら、不動産業者に相談すると「業者の都合の良いようにされてしまうのでは?」との警戒心が働いているのかも知れません。前向きに考えるのならば、わたしはここに大きなビジネスチャンスがあると思っています。
このような業界のイメージを打破するためにも、不動産コンサルティング技能登録制度が発足しました。現在、約3万人弱の登録者がいますが、宅地建物取引主任者の約82万人、税理士の約7万人と比べるとまだまだ少ないのが現状です。
不動産コンサルティング業務の定義は「依頼者との契約に基づき、不動産に関する専門的な知識・技能を活用し、公正かつ客観的な立場から、不動産の利用、取得、処分、管理、事業経営及び投資等について、不動産の物件・市場等の調査・分析等をもとに、依頼者が最善の選択や意思決定を行なえるように企画、調整し、提案する業務」となっています。依頼者の立場に立てる素晴らしい仕事だと思います。まさに不動産のプロ中のプロです。優秀な不動産コンサルタントが増えることがそのまま不動産業界への信用や社会への貢献につながると考えています。
コンサルのポイント その32 税理士の力
税理士はネットワークの中でも最強の存在です。資産家の多くは顧問税理士をかかえています。お金や不動産の相談の窓口として最も身近な存在になります。
税理士を挟んで不動産コンサルタントとお客様が結びつくこともあります。税理士とのネットワークの充実度がそのまま不動産コンサルタントの業績に直結するといってもよいくらいです。私は税理士を三つのタイプで捉えています。
一つ目のタイプは、一般的な税理士です。割合でいうと80%くらいです。記帳や納税などの代行を主な仕事としています。二つ目のタイプは、財務や経営などのコンサルティングを行っている税理士です。割合でいうと15%くらいです。三つ目のタイプは、資産税に特化した税理士です。割合でいうと5%くらいでしょうか。相続税や譲渡税を専門分野としています。M&Aもこの分野に入ります。
一般的な税理士とは資産家の顧問先として関係を持つ場合が多いのですが、ここで気をつけておくことがあります。資産家が不動産活用や資産運用等を行なう場合、予め身近な存在の顧問税理士に相談するケースがほとんどです。ところが、相談を受ける一般的な税理士は不動産活用や資産運用については詳しく分からないので、「慎重に検討しなさい」というような曖昧なアドバイスになりがちです。そこで予め布石を打っておくとよいでしょう。「税理士さんに相談される場合は、顧問税理士ではなく資産税専門の税理士さんに相談されるとよいですよ。専門以外のことについて相談を受けても、よくわからないので立場上責任のあるアドバイスができないのですよ」と伝えておくのです。
コンサルティングを行なっている税理士は、顧問先から不動産の相談があると、私達のような専門家とのネットワークを活用して、的確なアドバイスを試みます。お金・税金のプロと不動産のプロがタッグを組んで資産家に対応することができれば質の高い仕事となり依頼者の安心感や満足度も高まります。なおコンサルティングができる税理士は往々にして別法人を作っている場合が多いようです。税理士の中には納税代行だけでは先行きに限界を感じ、相続や不動産を勉強しながらコンサルティングに力を入れ始めている先生も増えてきています。これらの税理士は資産を活用することによって収益の伸ばし方をアドバイスする立場なのですが、具体的なノウハウがありません。そこで不動産コンサルタントと相互補完的に仕事をするのです。
コンサルのポイント その33 重要な「共感的理解」
資産家の元には様々な美味しい話がやってきます。が、何が本当に資産家にとって良い提案なのかは素人には分かりません。みんながうまい話を持ってきますが、資産家は誰にも相談できず一人で抱えて孤独になり、心を閉ざしてしまう傾向があります。財産を持っているがために、それを守ろうとして頑固になってしまうのです。
そのような資産家にコンサルをする際には『傾聴』よりは『共感的理解』をすることがポイントになります。「相手の言いたがっていること、わかってほしがっていること、訴えたがっていることを、言いたがっているまま、わかって欲しがっているまま、訴えたがっているままに」理解するのです。この段階で専門家としてのアドバイスは要りません。ご年配の資産家の場合は、親の話、兄弟の話、子供の話、ご近所さんの話、昔の苦労話を延々とお話いただけます。
資産や土地活用についての話も同じです。過去の経験談や周りから聞いた話を取り留めなくお話されます。現在とは状況が変わっている話もたくさんあります。しかし、そこでは説明、説得、アドバイスはしません。それをすると「自分を否定されているというメッセージ」として伝わる恐れがあるからです。
経営者はよく孤独だと言われますが、資産家もある意味孤独な人達です。大きな決断をするときには誰も手伝ってくれません。最後は本人が決断しなくてはなりません。人間緊張感が高まったときに素が出るものです。そんな時に自分に共感してくれている人が近くにいれば心強いものなのです。いくら良い提案であっても、自分をよく理解してくれてない人の提案は受け入れがたいものです。ベースに共感的理解があって初めて、現状把握・問題解決・対策立案といった通常のコンサルティングに移っていくのです。
法人相手であれば経済合理性で判断してくれます。ところが個人の場合は最後の最後で「実は」とか「やっぱり」とかの話が出てきてご破算になることが多々あります。それは、共感的理解のプロセスを省いて、いきなり結論を急いでしまったからなのです。個人は感情の生き物でもあるので、意思決定が経済合理性や論理性以外の所でされてしまう事があるのです。
資産家とのお付き合いの基本は「じっくり」です。いきなり提案書を出すよりは、顧問契約を結んでじっくり話を詰めていったほうが良いでしょう。資産内容の把握をしたらすぐに提案するのではなく、依頼者の気持ちを共感的に理解してから提案書を出してください。
*『事例から学ぶ 安全・安心の相続と資産運用』(住宅新報社)に収録した事例を基に再構成しています。