連載「実践 事例で考える 不動産コンサルティングの進め方(27)」 ~不動産相続コンサルの実際(前編)~
福田 郁雄 株式会社福田財産コンサル 代表取締役
第27回
~相続人全員の生活設計および二次相続対策まで考えた遺産分割のコンサル~
父親が遺言書を残していましたが、その当時は子供(父の孫)が農業を継ぐかも決まっていませんし、その時から家族状況、生活環境、資産内容も変わってきており、相続人の意思としては、遺言書を優先するよりも今の生活に合った内容で、みんなで協議して遺産を分割したいという考えでした。
相続人全員の生活設計および相続税納税のことを考慮しながら、最適と思われる遺産分割協議書作成のお手伝い、およびその執行について助言を行いました。一次相続の執行、二次相続対策、相続人全員の生活設計(資産設計)を同時に考えた、見本となる好事例をご紹介します。
-依頼者の状況-
八王子市の地主一家の依頼です。地元の名士であった父親の相続が発生しました。相続人は妻、長女、養子(長女の婿)、次女の4人です。父親は大変しっかりした方で、資産管理はほとんどご自身でなさっていました。遺言書も作成されていましたが、作成した当時と現在では状況が変わってきており、そのままでは家族の生活設計に合わない部分がありました。相続税納税は紹介された税理士の方にお任せしていましたが、分割のことは自分たちで決めてくださいと言われ、不安がありました。そこで、セカンドオピニオンとして、親戚から紹介のあった当社に相談がありました。
依頼者は
Aさん 60歳 (長女の婿) 農業、不動産貸付業
家族構成
母親 80歳 (父親の配偶者)農業、不動産貸付業
B子さん 55歳 妻 (長女)農業、不動産貸付業
C子さん 50歳 義妹(次女)主婦 結婚して、同じ町に住んでいる
(図1 相続関係説明図)
資産内容
生産緑地 4000㎡ 市街化区域
アパート 2棟
マンション 1棟
畑 6000㎡ 調整区域
定期借地 3区画
金融資産他
依頼者の要望は…
・父親の相続が発生した。遺言書はあるが、8年前に作成されたもので現在の状況と相続人の希望に合わないので、どうすれば良いか?
・依頼している税理士は数多くの相続の経験を持つが、資産の分割については家族で決めてくださいと言われた。
・次女C子さんはお嫁に行って専業主婦です。農地を相続しても困る。
・アパート経営と農業をやっているが、このまま続けていけるのか不安がある。それなりの資産はあるが、それに見合う収入を実感出来ていない。
実際の展開は…
1.遺言書のままの相続した場合の問題点
まずは、遺言書通りに相続した場合のそれぞれの相続資産のROA分析および、相続税の試算を行いました。それぞれの相続する資産内容は、
母 相続税額 0円
・自宅(土地・建物)
・アパート1棟
・賃貸マンション1棟
・定期借地(3区画)
養子Aさん、長女B子さん 相続税額 それぞれ1億3千万円
(以下1/2ずつ共有)
・畑(5000㎡)調整区域
・生産緑地(4000㎡)市街化区域
・金融資産他
次女C子さん 相続税額 1千万円
・C子さんの自宅(土地)
・畑(1000㎡)
・アパート1棟(債務あり)土地は母親と1/2ずつ共有
相続税試算合計は2億7千万円でした。
遺言書とおりに相続をした場合の問題点は以下です。
・ 嫁に行った次女C子さんは農業をやらないので畑はいらない。
・ 二次相続で揉めないような布石が打たれていない。
・ 金融資産だけでは相続税が払えない。
・ 生産緑地を解除して宅地化すべきか、納税猶予を受けるべきかはっきりしていない。
・ アパート・マンションの修繕費も増えつつあり、単純に相続するだけでは今後の生活設計が画けない。
また、税理士による相続税の試算がされていましたが、税金を少なくすることに主眼が置かれ、生産緑地を継続し、納税猶予を考えていました。税金はほとんどゼロですが、今後の生活設計を無視したものになっていました。
たしかに、生産緑地を継続し、納税猶予を使えば、二次相続時まで相続税が先送りできます。しかし、相続税額は減ってもROA分析(財産の収益性分析)をしてみると、手元に意外とお金が残らない事が分かりました。また、マンション・アパートは築年数が経ち、今後家賃下落が懸念されました。大規模修繕などの対策を打たなければなりません。そのためには、ある程度の現金が必要になります。それらの問題の対策がなされていませんでした。資産の分割については皆さんで話し合い、お知らせくださいというものでした。
当社で相続税申告の書類をチェックしたところ、評価が甘い点が何箇所かありました。
・広大地適用の判断
・定期借地権の評価
・路線価の付いていない、私道の評価
・調整区域内自宅用地の評価
・定期借地権保証金債務控除の評価
・不整形地の評価減
等、ご検討いただきたい点を挙げて文書にてお願いしてみました。
その税理士さんも男気のある税理士さんで、面子にこだわらず、聞く耳を持っていらっしゃいました。ただ、最終的には辞退していただくことになり、当社で資産税に強い税理士さんをご紹介することになりました。
不動産の評価については、不動産に精通していなくては難しいのが実情です。ここが多くの相続を担当する税理士さんが苦労している点です。不動産コンサルタントは、このような点で困っている税理士さんに適切な助言が出来ると良いでしょう。
2.遺産分割協議書作成
遺言書に依らず、相続人の希望を生かした遺産分割を行う為に、当社で新しくご提案をすることにしました。その際、まず相続人の皆さまに前提として下記の点をご確認いただきました。
・父親の願いは何か?
・相続人四人それぞれの生活設計をどうするか?
(5年後、10年後、20年後について、定年は、楽しみ、生きがい、家族の幸せは?)
・相続は法律問題にしない事が大切。話し合いで決める事。
その上で、当社とコンサルティング業務委託契約の締結をしました。
業務内容は
・相続財産の特定、財産評価、収益性分析
・相続に関する助言
・納税用地売却
・相続後の資産設計
等です。
具体的な内容は、多岐にわたるため、当社でスケジュール表を作成し、計画的に一歩一歩進めていきます。(図2 スケジュール表)スケジュール表を作成する事により、何をやるべきかと時期が分かるので安心です。また、業務委託契約を結び依頼をした段階で、コンサルタントに責任が移り、依頼者の肩の荷がおりる効果もあります。
遺産分割の基本方針は下記の通りとしました。
①何よりも相続人全員の今後の生活設計を最優先に考える
・それぞれが収益力を持つ不動産を所有するか管理して安定収入を得る
・次女C子さん以外は農業を続ける
・所得はなるべく均等化させ、所得税の節税を図る。
②二次相続も含めての判断とする
・長女B子さんが最も長生きする前提で分割する(二次、三次相続に影響)
・問題を先送りにしない。目先の節税より、将来増税になる事を避ける
・二次相続で節税が出来るような分割とする
③次女C子さんの遺産分割は一次相続で完結させる
・次女C子さんの生活設計を考慮し、無借金アパートを相続する
・アパートローンの残債分は現金で相続する
・アパートの母の土地持分1/2は贈与する。贈与税に相当する現金も相続する
・二次相続では次女C子さんは相続放棄をする
3.全員の生活設計を最優先に考える
父親の代に建てたアパートはおよそ築10年経っています。減価償却費とローンの金利が減り、税金が増え、手取りが減ります。老朽化で家賃減少し、手元にお金が残らないジリ貧の可能性があります。大型鉄筋コンクリートマンションではなく、無理な借金をしていなかった点は幸いでした。周囲でマンションを建てた資産家も似たり寄ったりの状況です。
生産緑地は駅前の一等地なので、宅地化してその土地にマンションを建てることも検討しましたが、借金が増えるだけで手元にお金が残りません。相続人全員の生活設計を考えて、ここは思い切って売却して資産を組み換えることにしました。広い敷地を強みにして、マンションデベロッパー業者に買い取ってもらえれば、ある程度の値段で売れそうでした。
生産緑地は母親とAさんとB子さんが相続することにしました。Aさん、B子さんも相続するのは、売却して相続税納税分の現金を確保するためです。持分は、Aさん、B子さんが相続税納税できる程度に持ち、残りは母親が相続します。その際、生産緑地の売却金額と相続税納税の想定金額を出して、そこから逆算して、持分を決めます。各自がいくら持ち、いくら払うか綿密な計算が必要になります。ここでの想定金額や持分を間違えたら、厄介なことになります。(Aさん、B子さんの持分が少なすぎたら、母親からの借金か贈与が必要となる。持分が多すぎたら、母の持分が減り、配偶者控除が減ってしまう、また、二次相続の原資が減ってしまう)今回は母親8/10、Aさん1/10、B子さん1/10で相続しました。内心ビクビクしていたのですが、幸い売却金額および相続税納税額と持分が想定とぴったり合ったのでホッとしました。
売却資金の使い方は、AさんとB子さんは相続税の納税。母親は都心の収益不動産に組み換えて、収益力と2次相続用に節税力をつけることにしました。
今回相続税を払ってでも、生産緑地を解除して売却し、その資金で都心の収益不動産を購入する方が明確な生活設計が出来ると考えました。中古の収益不動産ならトラックレコード(実績)があるので、毎月いくら家賃収入が入るか分かります。この様な農地から収益不動産への組み換えは、今回当社に依頼者を紹介してくれた親戚の方も行っています。紹介者にお願いすると、実例として紹介して良いとお返事をいただきました。詳細な事例をご紹介できたので、みなさんに組み換えの話を納得してもらえました。農地を売却して都心に不動産を買うという話は、周りではあまり聞かないので、不安があったのでしょう。紹介者のご厚意のお陰で、みなさんに安心していただくことが出来ました。
都心の収益不動産の購入及び、債務が付いているマンション、アパートは、母親が相続し、借金をなるべく母親に残しました。これは、二次相続の際に債務控除が使えるからです。元々、母親は資産を1/2持っていたので、二次相続対策が重要になります。
4.次女の遺産分割を一次相続で完結
次女のC子さんは、遺言書では、使わない農地とアパートの借金も承継する事になっていました。土地も母親と共有のままです。農地を相続しても活かしきれませんし、アパートの負債を抱えては精神的にも負担になります。
これらを解決するために、
①農地は相続しない
②もともと相続する予定だったアパート1棟を相続。その際、債務分、大規模修繕費用も現金で相続する
③母親と共有になっている土地も、二次相続まで待たず、同時期に贈与をしてしまう。(相続時精算課税制度を活用)。
④相続税と贈与税の支払は実質母親にしてもらう。その金額相当分を代償金として母親から次女に払う。
⑤上記の条件の代わり、二次相続は放棄する約束にする。
C子さんの生活設計が出来る上に、一次相続で完結します。上記約束を担保するため、母親に公正証書遺言を残しておいてもらうと同時に家庭裁判所へ「遺留分放棄許可審判」を行ないました。合理的な理由があれば、遺留分放棄の審判がおります。当社が助言をサービスで行ない、本人が申し立てをしました。
遺留分放棄申立書に記載した概要は以下の通りです。
申し立ての趣旨
被相続人母親の相続財産に対する遺留分を放棄することを許可する旨の審判を求めます。
申し立ての実情
1.申立人は被相続人の次女です。
2.遺留分を放棄する理由
(1)申立人は被相続人の配偶者の相続に際し、遺言公正証書に係らず、相続人全員の合意により、遺産分割協議書を作成し相続しております。その中で、申立人が遺留分放棄許可審判申立てを行なうことを約束しています。
(2)遺言書において、調整区域内にある農地1000㎡を相続することになっていましたが、申立人は農業を行なう意思はなく、アパートを無借金にして相続することを望みました。
(3)遺産分割協議によって実質無借金のアパートを相続することができ、月額約40万円の賃料収入を得ており、生活は安定しております。
(4)アパートの土地の一部は被相続人の名義となっているため、申立人は予めその土地の贈与を受けています。被相続人の相続を待つよりも、先に贈与を受け単独所有にしておきたかったからです。
(5)申立人は代償金を被相続人より受け取り、遺産分割協議が履行されました。
(6)近隣の農家が跡継ぎに大半の資産を相続している慣習がある中で、嫁いだ申立人は、自宅用地の他、生活が安定するだけの資産を相続できたことに納得しています。
(7)申立人は以上の事情により、被相続人の相続をする意思はありませんから、相続開始前において遺留分を放棄したいのでこの申立てをします。
以上
一般的には、結婚し家を出た子供の場合、相続財産は自宅用地と判子代だけという話が多いです。これは、家督相続が一般的な時代に、資産を本家に集中させる意味がありました。本家の本業を維持発展させていくためには、合理的な方法だったのです。
ところが、最近では民法の均分相続という考えと混在するようになっています。
均分相続という考えも尊重しつつ、従来の家督相続的相続のメリットを活かします。その矛盾を解消するところにチエを絞るのです。
今回は、それぞれの今後の生活設計を考えつつ、かつ二次相続で問題が発生しないように対策をしました。
これにより、
・何年後か分からない二次相続時に相続するよりも、子育てなどでお金が必要な時期にまとめて相続できる。生き金として使え、贈った方ももらった方もハッピー。
・将来においても遺産分割協議をしなくても良いので、財産面では完全に切り離せ資産管理がしやすくなる
(生活を一にしている人だけでの共有はOK)
相続が発生すると、自分の取り分を多くしようという事しか考えない人もいますが、今回、母親、Aさん、B子さん、C子さんは双方が譲って、満足のいくWIN・WINの関係となりました。具体的に生活設計を考えて、それぞれが自分に必要充分なだけを相続し欲張らない。理想的な相続です。
一般的な都市農家の相続の仕方とは、まったく違うアプローチです。世間の常識からすれば、本家のAさんはもっと多くの財産を相続してもおかしくないのですが、自宅と農地だけ相続しました。
次女のC子さんは、二次相続をきっぱり辞退し、問題を先送りにしませんでした。C子さんは、当社のアドバイスを聞く前から、そういう方向性を考えていたようでした。その意気込みに理解を示して、気持ちよく皆で財産分けしたのです。二次相続まで考えた長期的な資産設計・生活設計の考え方は大いに参考になると思います。言うだけの人は多いですが、実際にそこまで行動を起こす人は少ないです。
一見次女のC子さんの取り分が多いように見えますが、将来の分割を前もって済ませ、今後の本家の資産管理をAさんがまとめて出来るのは、Aさんの大きなメリットです。Aさん、B子さんは自宅・農地だけの相続ですが、生活が一である母親の相続した財産を活かせます。総合的・長期的に考えて、すばらしい判断です。
意味もなく多く取る事を考えるよりも、それぞれの10年後、20年後の人生設計・生活設計を考えて、お互いを思いやりながら分割します。
なお、次女C子さんの主張考えていた方向性は、日ごろ私が提案しているものと合致していました。つまり、
・無借金
・大規模修繕
・共有解除です。
これは、正しい意志決定だとピンときました。
ただどんなに正しい対策案でも、当事者同士が自分の案を主張するだけでは、なかなかまとまりません。間にコンサルタントが入り、客観的にそれぞれの立場を考える事によって、話がまとまります。コンサルタントは、どちらか一方だけに肩入れすることなく、それぞれの利害関係を考えて対策を考えます。依頼者の隠れたウォンツを察して形にしてあげるのがコンサルタントの仕事です。
素人だけではなかなか全員の意思を汲んだ遺産分割が出来ません。不動産相続は不動産に詳しくて、投資に詳しければ最も肝心なところのアドバイスが出来ます。まさに不動産コンサルタントの守備範囲で、出番が沢山あります。まだ自信のない人は専門家チームを組んでやることもできます。
これらは単品の提案でなく、複雑に絡み合っている案件・スケジュールをセットでコンサルするから価値があります。
もし依頼人同士が弁護士を立てて、遺産の取り合い合戦になれば最悪なことになっていました。双方とも不満が残ります。一般的に税理士さん単独では、これだけ総合的に考えられる人は少なく、資産を共有にして、問題の先送りになる事が多いでしょう。不動産相続の場合は、不動産の事を網羅できる不動産コンサルタントに任せる理由がここにあります。
5.相続時精算課税制度を利用
共有問題を解消するため、C子さんは、共有になっているアパートの土地を、母親から贈与してもらうことにしました。この時、相続時精算課税制度を利用します。
相続時精算課税制度とは、親から子へ生前に贈与した2500万円まで非課税で、それを超えた分の20%を贈与税として納付する制度です。親が死亡した場合、この制度の適用を受けた贈与財産も相続財産に合算され、相続税が計算されます。その際、支払った贈与税は相続税から控除されます。
これは、財務省でも二次相続を含んだ対策として、贈与を勧めているとみていいでしょう。若い世代に所得が移転できて、経済効果もあります。
ただ、本当に効果のある使い方を知らない方も多いようです。単に節税目的で暦年贈与の方が得という方もいます。ただ、税金が得だから使うのではなく、お金が必要な時期に贈与を受けて、お金を有効活用することが大切ではないでしょうか。
ちなみに、暦年贈与は毎年110万円まで非課税で、暦年贈与を10年かけて1100万円も行なう事もできますが、2500万円以上を先に贈与して、ここで全て解決することにしました。精神的にも、金銭的にも問題を先送りにしないことの有用性を考えてみてください。
6.遺産分割協議書作成のポイント
以上のご提案によりそれぞれが相続する資産と相続税額は
母親 相続税額 0円
・アパート1棟
・賃貸マンション1棟
・生産緑地持分80%(長女・養子と共有)
・大半の金融商品と負債
養子Aさん、長女B子さん 相続税額 それぞれ6千円
(以下それぞれ1/2ずつ所有)
・自宅(土地・建物)
・畑(5000㎡)
・生産緑地持分20%
・定期借地(3区画)
次女C子さん 相続税額 3千万円
・C子さんの自宅(土地)
・アパート1棟(無借金)
・アパートの大型修繕費、相続税、贈与税分の現金
この分割案では、相続税も約1億5千万円になり、遺言の通り相続する場合と比較して約1億円減りました。
遺産分割を作成する際には、単なる評価だけでなく、各物件の収益力を見て分割しなければなりません。キャッシュフロー、ROA、それぞれの生活設計も考えた上で、誰がどのような形で持てば有効に使えるかを考えます。
また、遺言書がある場合、その通りに相続しなければならないと思われている方も多いですが、その通りではありません。自分たちで遺産分割協議書を作成して、各相続人の合意が得られれば、遺産分割協議書通りに相続が可能です。その際に、「被相続人は公正証書遺言を残しているが、時の経過による遺産の変動があり、また、相続人の生活状況にも変化が生じているので、被相続人の遺志を尊重しつつ、相続人全員の合意により、この遺産分割協議書を作成した。」という覚書書を作成した方が良いでしょう。遺言書の存在で、後で揉めないようにします。遺産分割協議書の中に書き込むよりは、「覚書書」として別個にして、添付します。
7.不動産コンサルタントは相続アドバイザーの適任者
不動産資産家は相続のことを相談する際に、弁護士や税理士にすることが多いそうです。弁護士・税理士は相続のプロだと思っている方も多いと思いますが、資産家の大部分の資産を占める不動産の専門家ではありません。実は、不動産資産を持っている資産家への対応は限界があるのです。よほど相続に精通した方以外は、相続に関する業務の一部分しか行わないのが現実です。
相続コンサルの際は、遺言書作成、遺産分割協議書作成だけでなく、不動産投資による評価減、利用区分による評価減、鑑定評価による評価減、宅地開発による評価減、納税用地確保、アパート建築による評価減、遺贈、共有物分割、連年贈与など、様々な項目があります。これらを、二次相続のことまで考えて、時には、一次相続までさかのぼって、対策を立てます。
資産規模、場所、考え方、時期、年齢を踏まえます。資産を複数持っていれば、その分多くの分割案が出てきます。真の相続対策も考えて、対策を打っていきます。
巷で相続対策というと、持っている土地に、借金してアパート建てるというイメージがあると思いますが、実際は、どう分けて、活かして、生活設計するか広範囲の事を考えての対策が必要になります。それぞれの生活設計を10年先、もしくはそれ以上考えて、関係者皆さんが満足していただける提案をします。もめるのは最悪です。すべて長期的視点、全体的視点で考えます。
これら広範囲にわたる資産家の相続対策には、不動産コンサルタントが適任ではないでしょうか?不動産、相続、建築、不動産投資、金融、税務、法務、経営、哲学と、様々な分野の要素を統合し、常に依頼者の立場で最適案を追求します。これら専門家・実務家とのつながりを適切にマネジメントします。
実は不動産コンサルタントは、相続業務では、コンサル報酬がもらえません。弁護士法の非弁行為になるからです。この点に気をつけてください。お客様の為になる提案をしていれば、めぐりめぐって、ちゃんと報酬入ってくると実感しています。
今回は皆さん譲る心があったので、話し合いでスムーズに遺産分割が決まりました。父親が人格者で地域のリーダーで、周りの方達からも慕われていました。その父親と母親の教育が良かったのでしょう。遺言書よりも良い教育を残したと言えるでしょう。
■遺産分割10箇条 (コラム)
1.まずリーダーにまとめるか、皆で分けるかを決める
家業、資産管理ができる能力のあるリーダーがいれば、リーダーが包括して相続を受けても良い。もちろん、相続人の生活を考えてあげ、代償金や贈与、法人化により役員報酬を支払うことなど、公平にできる配慮ができることが前提である。リーダーがいなければ均分相続が無難である。
分けることによって、資産価値が下がるものは無理して分けない方が良い。
分けるのであれば、思い切って現金化して、現金で公平に分ける。
2.安易な共有物を作らない
原則共有にはしないこと。ただし、夫婦間と親子間であれば、つぎの相続で共有が解消されることもあるので構いません。兄弟姉妹での共有は必ず揉めるので避けましょう。同居して財布が一緒(生活が一)である場合は共有もありです。
3.相続人それぞれの生活設計を考えてみる
10年後、20年後、30年後のそれぞれの生活を画くことから始めてください。相続人のそれぞれの夢、目標、生活レベルを考え、誰がどの資産をどれだけ相続するのかを考えます。多ければ多いほど良いということではなく、安心して安定して生活できるレベルで十分だと考える人が多いのです。
4.納税が10ヶ月以内にできるように分ける
各人の相続税はそれぞれが現金で払うことになるので、相続税を支払うための現金が用意できるかを考え分割する。現金が不足する場合は資産を売却して現金化して納税します。土地の開発や生産緑地などの解除には時間がかかるので、時間管理が大切です。売却する資産は相続税納税額を想定して、共有にしてから売却し、各人に現金が行き渡るようにしなくてはなりません。
5.二次相続対策も同時に考えて分ける
配偶者控除はなるべく目一杯使った方がデフレの時代では有利です。配偶者の資産は二次相続対策が打ちやすいものにすると良いでしょう。例えば更地を相続し、評価の低い収益不動産に組み換えるなどの対策です。借金はなるべく配偶者に相続すると二次相続には有利です。
6.過去の共有物分割を同時に行なう
共有物は不良資産です。相続を機械に過去の共有物を分割してしまうのも手です。共有名義になっていて、共有者の1人だけが使っている場合は使用貸借です。使用貸借という形になっている間は、相続が完結していることにはなりません。
7.債務の分割から考える
借金は遺産分割協議で勝手に分割を決めることができません。一旦、相続人全員の連帯債務になります。その後、金融機関に免責的に債務を承継する手続きを行います。金融機関が納得できる債務の承継を考える必要があります。収益力のある不動産とセットで債務を承継すると良いでしょう。
8.法定相続分、遺留分は過度に意識しない
必ずしも民法の定めにしたがい法定相続分で分ける必要はないので、それぞれの生活を考え、話し合いで分けることが基本です。分け方のルールはありません。遺留分を過度に気にしすぎる必要もありません。前もって、必要な時に贈与を受けたので、相続を放棄するという考えは極めて全うです。最近の相続は老老相続です。老いてから相続を受けるのであれば、若いうちに贈与なり、一時相続で多めに分けてもらい、二次相続を放棄するなど柔軟な発想が必要です。法律に振り回される必要はありません。大切なのは相続人それぞれの生活です。
9.被相続人の思いを想定した分割にする
遺言書がある場合は遺言書を尊重します。遺言書があるからといって遺言書のとおりに相続をする必要はありません。相続人で話し合ってベストな遺産分割協議書を作って、納得のうえ相続する方が幸せです。遺言書は保険と思って作っておくのがベターです。被相続人の存命だった頃のことを思い出し、「被相続人ならどのように考えただろうか」という問いを発してみるのが良いと思います。
10.感謝の気持ち持ちなさい
感謝の気持ちがあれば、譲ることもできます。譲り合えれば相続財産は余ります。その後の良好な関係が一番の財産です。
遺産分割は上記のような多方面から検討が必要で、100人のアドバイザーがいれば100通りの提案となります。
全体最適、長期的視点から遺産分割をしなければ後悔することになるでしょう。
もっとも、相続前に最適な資産設計がしてあれば、大半の相続問題は解消できることを最後に申し伝えます。