連載「実践 事例で考える 不動産コンサルティングの進め方(28)」 ~不動産相続コンサルの実際(後編)~
第28回
~生活設計、二次相続対策を考えた資産設計のコンサル~
前編において、遺産分割のコンサルをご紹介しました。後編は相続税の納税のコンサルと二次相続を考慮した相続人それぞれの生活設計についてのコンサルです。
生産緑地の解除の苦労、効果的な土地の売却方法、都心のビルへの資産の組み換え、法人設立による所得の分配策などの事例をご紹介します。
-依頼者の状況-
依頼者は…
Aさん 60歳 (長女の婿) 農業、不動産貸付業 八王子市在住
家族構成
母親 80歳 農業、不動産貸付業
B子さん 55歳 妻 農業、不動産貸付業
C子さん 50歳 次女 専業主婦
資産内容
母親 ・アパート1棟
・賃貸マンション1棟
・生産緑地4000㎡持分80%(長女・養子と共有)
・金融商品8千万円
・負債2.5億円
Aさん、長女B子さん 相続税額 それぞれ6千万円
(以下それぞれ1/2ずつ所有)
・自宅(土地・建物)
・畑(6000㎡)
・生産緑地持分20%
・定期借地(3区画)
依頼者の要望は…
・遺言はあったものの、相続人全員で協議して遺産分割協議書を作成のうえ、無事に名義変更を終えました。10ヵ月以内に納付しなくてはならない相続税の支払い方法、および二次相続をも考慮に入れつつ、家族のそれぞれの生活設計を考えた、資産運用の提案をしてほしい。
現在、農業が本業ですが、それだけではもちろん食べていけません。賃料収入があるので、家族が生活するには十分の収入はありますが、賃料の下落や修繕費が増えており、このままでは先行きが不安です。
実際の展開は…
1.生産緑地の入札方式による売却
前回ご紹介した遺産分割協議書の内容に相続人全員にご納得いただき、相続に詳しい若手のフットワークの良い司法書士をご紹介して、無事に相続登記を済ませました。それぞれの相続人の相続資産がはっきりしたので、次は資産運用です。まず、Aさん、B子さんの相続税納税資金、および母親の収益不動産取得資金のための生産緑地の売却を行いました。なるべく高く売却するために入札方式によって売却します。
一般的には路線価をベースに相続税評価を出すことが多いのですが、駅前区画整理地内にある4000㎡の生産緑地は相続税評価の判定が困難でした。
相続税の評価は本則では時価で行うこととなっています。では、この場合の時価はいくらになるのでしよう。
広大地の扱いになるのでしょうか、マンションデベロッパーが購入してくれる土地なのでしょうか、それとも戸建の分譲業者しか買ってくれないのでしょうか、マーケットの判断に委ねられます。
この時私は6つの想定される土地価格を提示しました。
① 2億5千万円 : 当初お願いしていた税理士の評価(広大地評価減適用)
② 5億8千万円 : 某住宅メーカー評価(画地補正なし)
③ 11億円 : 依頼者の願望(過去に坪100万円だったという記憶)
④ 6億1千万円 : 当社案①(三方向道路の補正をつける)
⑤ 8億3千万円 : 当社案②(公示価格:約路線価の25%増)
⑥ 4億2千万円 : 当社案③(地区計画、風致地区による制限を加味して30%減した公示価格)
いったい、どの数値が本当の価格なのでしょうか。どれも正解なのです。それぞれに根拠があるからです。最終的には売却できた価格が時価となります。その価格をもとに鑑定評価書をつけて相続税の申告を行います。実は時価は売却するまで分からないのが、現実です。
私は⑥の当社案③をベースに入札を行うことにしました。なぜなら、この生産緑地は地区計画区域内で、その方針は「周辺環境との調和に配慮した良好な居住空間の形成・維持に努め、立地特性を活かした中層住宅地の形成」となっていました。そのために、建築制限が厳しく、例えば以下のような与件がありました。
・敷地面積の最低限度は200㎡
・建築物の高さの最高限度は16m
・第一種高度地区
・風致地区につき壁面後退が隣地より1メートル、道路より2メートル
・建ぺい率60%、容積率200%
土地が200㎡以下に区切れないので、戸建住宅用地には向きません。100㎡程度でしたらエンドユーザー向けに路線価での売却も可能ですが、200㎡では総額が高くなり思った価格では売れません。
4000㎡もある土地なので、開発用道路をつけなくてはいけないため、有効面積が減りその分価格が低くなります
となれば、マンションデベロッパーが購入してくれるかがポイントになります。しかしながら、建築物の高さの最高限度は16mという制限が付いています。5階建てがMAXです。容積率200%を消化するのが大変そうです。
道路は三方向にありますが、隣地が北にあって日影規制の厳しい部分もあります。全部をマンション用地にすると不利な場合も考えられます。
そこで、対象地について3つの区割り案を作成し、実際に建築士にそれぞれボリューム設計をしてもらい容積消化率を出してもらいました。変形した広い生産緑地なので、区割りの仕方によって容積消化率が変わり、土地の売却価格が変わるからです。
A案 北側一部残す 3000㎡売却
B案 南西側一部残す 2800㎡売却
C案 全て売却 4000㎡売却
(表1 売却想定価格の算定:開発法による)
建ぺい率、容積率、日影規制などを踏まえて検討したところ、容積消化率はB案が180%と一番高くなりました。全部売却した方が、手取り額が大きくなり、資産の組み換えにも有利になると分かっていたのですが、全部売却すると、坪単価が下がってしまうことが分かったので、あえて土地を一部残して売却することにしました。
もちろん、先祖伝来の駅近の土地は、残しておきたいという気持ちをくんだということもあります。
入札要綱のポイントは以下のとおりです。
・最低入札価格は4億5千万円
・区画整理、地区計画、風致地区につき美しい街づくりが形成されています。
・近隣地域一体が風致地区につき、高級住宅街として定評がある地域です。
・近隣は風致地区(40%/80%)なので、マンションの供給がない地域です。
・近隣はファミリー賃貸マンションやアパートが多く供給されている地域です。
・徒歩1分のところにスーパー、大型ドラッグストア、スポーツクラブがあります。
添付資料は案内図・公図・都市計画図・地区計画・謄本・仮換地図・参考敷地です。
当社で郊外のファミリー向け価格帯でやっているマンションデベロッパーに絞って声をかけましたが、厳しい反応でした。マンションデベロッパーが買えるか買えないかで、価格が大きく左右されるので、根気よく声をかけ続けました。
反応のあったマンションデベロッパー17社に物件紹介書をお送りしたところ、そのうち3社から札が入りました。その中で一番高い金額の4億8千万円での売却となりました。いつものことですが、入札では価格差が大きく出ます。この時は上と下でおおよそ倍の開きがありました。
この売却価格は当初、当社が想定していた金額とほぼ同じになりました。相続税納税分を逆算して、母親、Aさん、B子さんの持分を決定していたので、想定と数字が合い、胸をなでおろしました。
また購入するマンションデベロッパーが下記の売渡し条件を飲んでくれた点も幸いでした。
・実測売買での売買とします。
・現況有姿による売買とします。
・売主は瑕疵担保責任を負わないものとします。
・支払条件は契約時に10%、引渡し時に90%とします。
・融資の停止条件は認められません。
2.生産緑地の解除に8ヶ月かかる?
契約が無事に済みましたが、決済までが大変でした。売却前に生産緑地の解除が必要となります。生産緑地は3ヶ月で解除できると聞いていましたが、実際には関連する申請がたくさんあり、順番にやっていくと8ヶ月かかり納税に間に合いません。
必要な申請は次のとおりです。
1. 税務署の納税猶予で付けた抵当権の抹消「相続税の免除届け」を提出して2ヶ月かかると言われた。これが抹消されないと市への買取りの申し出書が出せない。
2. 農業委員会にて「農業の主たる従事者についての証明」が必要。農業委員会は一ヶ月に一度しか開かれないので、一ヶ月は待つことになる。
3. 市への「生産緑地買取申出書」の提出、一ヶ月以内に市が買取らない通知を行う。次の二ヶ月は農家の人に買取りの希望を聞く。買取り希望の農家がいなければ、生産緑地の制限が解除され、活用や売却ができることになる。
4. ところが、生産緑地の制限が解除されても、公有地拡大法による「土地有償譲渡届出書」を都庁に提出しなければ土地の売買契約ができません。届出を出して、3週間を経て売買契約ができるようになる。
5. 最後は農地法による5条申請である。これは2~3日で受理通知を受け取ることができる。
その他に確定測量なども考えておかなければなりません。民民の境界同意書、官民の道路査定に想定を超える時間を要することもあるので注意が必要です。
これらをまともに行なうとタイムオーバーとなってしまいます。1の抵当権の抹消は相続直後すぐにやるべきです。その他は平行して申請ができないか協議することです。今回は、スムーズに遺産分割協議が終わったことと、最初にスケジュールを組み、納税までの期間をシミュレーションしたこと、および各関係者の協力があり、ぎりぎりとなりましたが無事に生産緑地の解除が終わり、その後売却の決済が済みました。
3.都心の収益不動産の取得(事業用資産の買換え特例使用)
生産緑地売却益で、Aさんと長女B子さんは相続税納税資金を得ました。母親はその資金で都心の収益物件を購入します。母親はこの他に、父親からの相続でマンション1棟、アパート1棟を所持しています。収益不動産の大部分と負債を母親に集中させたのは、二次相続対策を考えてのことです。
まず当社でご紹介できる収益不動産を探しました。
マスト条件は
・都心であること
・駅近(駅から5分以内)であること
・分かりやすい立地 道順が分かりやすいこと
・ネット利回り6.5%以上であること
・生産緑地の売却資金で土地相当分の代金が支払えること
ウォント条件は、
・時価と評価額の乖離が大きいこと(家賃は高いが、路線価低い)
・築平成元年以降
・鉄筋コンクリート造もしくは鉄骨造
・山手線内
・大規模な修繕費がかかりにくいもの
です。
レジデンス、オフィス、店舗などの用途にはこだわりませんでした。
上記のマスト条件とウォント条件は、依頼者の希望を聞いたものではありません。当社の方で、依頼者の財産内容、思考方法、ライフワーク、リスク許容度、今後の生活設計に必要な収入額等を熟考して決めたものです。
よく依頼者のニーズを聞きなさいと言われると思いますが、それは違います。依頼者はプロではないので、適切な物差しを持っていません。プロがコンサルの過程で物差しを作らなければなりません。ただ、商品を売る営業マンとは、違うわけですから。今回の依頼者もプロの目利きを信頼してくれ、物件選定を任せてくれました。
物件の探し方は様々です。知り合いの不動産業者、資産家などからの固有の情報とアットホームやレインズなどのオープンな情報の中から探しました。数百件物件情報を見て、その中から100件程検討します。その中から2件、依頼者にお薦めできる物件が見つかったので、Aさんたちをご案内しました。目黒区と港区のビルです。決め手は立地と修繕費用と相続税の節税力でした。
(図2 物件比較表)
この2物件からAさんたちに決断していただき、港区のビルを購入することにしました。金額は4.8億円で、ちょうど事業用資産の買い換え特例が満額使えます。マスト条件とウォント条件をほぼ満たしています。
依頼者としては、ブランド立地とドッシリした外観が決め手でした。
二次相続対策に向けての効果としては、そのまま生産緑地を持っていた場合、1億8千万円相続税がかかります。この組み換えにより、相続税額が6千万円台まで下がりました。63%評価減です。(表3 港区ビル相続税評価減)
これは売買価格と相続税評価額の乖離が出来るからです。税理士の説明で良く使われる、借地権と借家権の効果も大切ですが、それ以上に時価と相続税評価額の乖離による節税効果の方が大きいです。このあたりは、不動産コンサルタントの一番の出番でしょう。
4.購入時のポイント
全額自己資金でも購入できましたが、建物代金相当分は借り入れをしました。事業資産の買い換え特例を使う場合の注意点として、減価償却費の取り扱いがあるからです。土地を建物に買い換えてしまった場合、建物の減価償却が使えません。その結果、経費が減り、所得税・住民税が増税になります。
土地の売却分で土地を購入し、建物分は追加資金を出せば、建物分にも減価償却費が使えます。そのメリットを享受するためにも、あえて借り入れをして取得費を増やしました。
この収益不動産探しは、早すぎてもダメです。生産緑地の解除と決済が終わらなければ資金の手当てができないからです。ずいぶん前から探していたのですが、話になるのは生産緑地の決済まで2カ月に迫ったところからです。そのタイミングで優良物件に出会えたのも幸運でした。
本物件は、任意売却物件で、建物の管理がきちんとされていませんでした。それを、賃貸仲介、売買仲介、プロパティマネジメントを行う不動産会社が購入し、元のオーナーに立ち退いてもらい、リフォームし、新しいテナントをつけ、収益不動産として売却するところでした。当社に情報をもらった時は、まだリフォーム中で販売情報も一般に出ていませんでした。値段も決まっていない状態で、特別に紹介してくれました。売主の不動産会社も、広告を出して買主を見つけるよりも、多少安くても、確実に買い手が見つかる方がベターです。そのあたりの売主と買主のニーズが合い、売買が成立しました。
この物件について、気になった点をまとめて、当社が不動産会社に問い合わせました。
・水道光熱費について
・償却について
・建物管理内容について
・屋上及防水について
・シーリングの打替について
・屋根の素材について
・工事修繕履歴について
・賃貸借契約の原契約開始日及びフリーレントについて
以上について、不動産会社より丁寧でスピーディーな回答を得ることができたので、その内容に納得の上、「取り纏め依頼書」を作成し、購入の手続きに入りました。「取り纏め依頼書」には下記の内容を掲載しました。
・重要事項の開示について
売主の有する重要事項の開示をお願いいたします。(消防検査、設備点検検査の報告書等)重要な瑕疵が存しないことを条件とします。
・停止条件について
一部融資を利用する計画ですが、融資不応諾による停止条件を必要としません。
・フリーレントに対する補償について
6カ月のフリーレントのテナントがあります。募集中のものもフリーレントになる可能性がないとも言えません。そこで6ヶ月分の賃料の補償もしくは、売却価格の減額を希望します。
・修繕工事について
お引渡しまでに屋上・バルコニー防水工事、鉄部の錆び補修をお願いいたします。
新しいテナント付けをしている段階なので、新しいテナントが入ったとしてもフリーレント期間は家賃が入りません。半年間のフリーレントがあるとするとかなりの金額が入ってきません。その家賃分を逆算して、多少の価格交渉をしました。価格交渉をする場合、とにかく安く何となく値切るのではなく、このように根拠のある指値をします。そうすれば、担当者も上司に説明しやすくなり、交渉が上手くいく可能性が高くなります。
5.法人の設立
収益不動産は母親が取得しましたが、同時にAさんが代表取締役になった管理会社を設立し、その法人が物件を借り上げる契約を結びました。その新法人からビル管理会社にビルの管理委託をします。
遺産分割は無事に終わりましたが、二次相続対策を考えて収益不動産はほとんど母親が所有しています。AさんとB子さん夫妻の収入は、農業収入と定期借地権からの賃貸収入のみになります。これだけの収入では、生活設計として不十分です。そこで、資産管理会社を設立し、母親の収益不動産の管理を行います。所得分散によって、母親の所得税の節税が図れます。また節税以上に、AさんとB子さんに役員報酬が行き渡ることに価値があります。
事業目的は不動産賃貸管理業です。Aさんが代表取締役、母親、B子さん、と孫が役員になり、それぞれ株を保有します。
父親から相続したアパート1棟、マンション1棟もサブリース契約または賃貸管理契約を結びます。それぞれの不動産の賃料収入から経費を引き、残った収益を役員報酬として、それぞれに支払います。その際、支払いシミュレーションを作成し、役員報酬の金額を決めました。賃料比率は、サブリース一括の場合は約20%、賃貸管理契約の場合は約5%です。
この所得分散によって、最高税率の母親の税率が下げられます。生活は一なので、誰に所得が行ったとしても、生活レベルそのものは変わりません。収入が便宜上分かれるだけです。課税所得が下がり、その分家族全体の税金も下がります。
法人設立の際、定款作成、印鑑の作成、登記の段取りは相続の移転登記をお願いしたフットワークの良い頼れる司法書士にお願いしました。ちなみに当社からはAさんに代表取締役の名刺・法人の横版をプレゼントしました。
ちなみに
法人設立のメリットは
①損益通算できる
②財務内容の透明性がアップする
③経費の範囲が拡大する
④税率が低くなる
⑤社会的肩書き・名刺が持てる
⑥家族に役員報酬を払って、所得分散が可能
⑦相続対策にもなる
デメリットは
①株主が増えすぎると財産管理が大変
②所得税より法人税が高くなる可能性がある
③税理士への報酬が増える
④法人住民税の均等割りの発生
⑤設立費用(約30万円)がかかる
6.定期借地権の売却を試みる
定期借地権3区画は、そのまま50年間持っていても良いのですが、相続を機会に売却を試みました。
まずは定期借地権底地を賃借人に売却する事にし、定期借地権底地売却のご案内を各賃借人に送付しました。
記載内容は次のとおりです。
この度、貸主○○の死亡により、相続が発生しました。新貸主の話し合いにより、定期借地権の底地を下記のとおり売却することになりましたのでご案内申し上げます。
恐れ入りますが、底地の購入のご希望の有無について、代理人までご一報いただきますようお願いいたします。
記 1.売却する物件 所在 八王子市○○ 地番 ○○ 地目 宅地 地積 170㎡ 2.売却価格 近隣公示価格 190,000円/㎡といたします。 3.底地購入必要金額 19,300,000円 保証金返還債権と相殺されます。 内訳 売買価格32,300,000円 保証金 -13,000,000円 ※売主、買主の直接の売買となるため、仲介手数料は不要です。 4.スケジュール 相続税の関係上、恐縮ですが、 平成○○年○○月○○日までにご連絡ください。 以上 |
この結果、残念ながら誰一人として購入希望はありませんでした。全員購入したい気持ちは持っていらっしゃるのですが、年金生活者であり、今から借金をしたり、現金を使ったりするのは避けたかったということでした。
ということで、定期借地権はそのまま保有することになり、満期に更地で戻ってきた時に活用を考えることにしました。お孫さんにとっては朗報だったかも知れません。
実は定期借地権の保証金を国債で運用していました。その当時の利息は高く、その運用益を考えると、賃貸マンションよりはるかに効率の良い運用だったとの感想を述べていました。
7.名義変更は大変で大切な仕事です
遺産分割協議が整ったら、各資産の名義変更を行いますが、この手続きは、収益不動産の売買と同様に手間ひまがかかります。
やるべき業務は、
・土地建物の名義変更
・抵当権者の変更(免責的債務の引き受け手続き)
・テナントへの所有者変更の通知
・テナントへの賃料振込先変更の通知
・火災保険の名義変更
・管理会社への所有者変更の通知
・電気、ガス、水道、ケーブルTVなどへの所有者変更の通知
お気づきになったと思いますが、第三者との売買契約と同じだけの仕事がありますね。
複数物件がある場合は全ての物件について、この手続きを同時に行わなくてはいけません。
遺言書の執行や遺産分割の執行は単に名義を換えるだけでなく、きちんと家賃収入が入り、各支払いがきちんと済むようになるところまでやるのです。
今回、金融機関とのやり取りが一時手間取りました。免責的債務の引き受けは、相続人全員の全財産や債務の内容などを把握していなければ出来ません。銀行員は全資産の評価をして、稟議書を作成するので、手慣れていない担当者だと時間がかかります。今回は最終的には支店長が自ら表に出てきて対応してくれたお陰でなんとかなりましたが、毎回債務の引き受けには苦労します。
積極的財産ばかりに目が行きがちですが、債務の承継をどうするか、誰が引き受け、だれが保証人になるか、綿密な計画と交渉が必要です。
債務の引き受けが終わらないうちは、銀行は預金を担保に持っているので預金が引き下ろせません。免責的債務の引き受けが済み、同時に通帳の凍結が解除できました。
8.結果
以上の資産設計のコンサルの結果をまとめると
[母親]
・税引き前キャッシュフロー 約800万円⇒約3700万円。
・ROA 2.7%⇒8.4%
・借入金比率 31%⇒44%
[Aさん、B子さん]
・資産管理会社の社長として、実質の資産の管理が行なえるようになった。
・役員報酬が得られるようになった。
・二次相続税が1.8億円⇒0.6億円になった
依頼者の感想
以下に依頼者の感想を付け加えておきます。依頼者の視点が見えてきます。
相続の相談は誰にすれば?(B子さんの感想)
父親が亡くなって、アパートの家賃管理をしている通帳を見たら回っていないのでは?と不安になりました。今までは父親1人で財産管理をしていたので、誰も分かる人がいませんでした。アパートの説明に来る担当者の話も良く分からないので、誰か分かる人に見てもらいたいと思いました。農協の税理士さんも農業をそのまま続ける方向でお話をすすめてくださいましたが、将来の生活が読めませんでした。そこで、家族で会議をして、不動産コンサルタントに依頼しようと決めました。
福田さんに提案された生産緑地の解除はびっくりしましたが、今後の生活設計を分かりやすく見せてくれたので、やろうと決断できました。
プロの対応、売り方に納得して任せられた(Aさんの感想)
福田さんに任せて業務委託契約を結んだら、肩の荷がおりてほっとしました。スケジュールもすぐに作ってくれ、やることが具体的に分かったのも安心できました。スケジュールを見ると、沢山の事が複合的に関わっているのですね。 方針を決めたら、どんどん話が進んで行った感じです。あっという間でした。すごく上手くいったと思います。
生産緑地は、入札での売り方も大きかったと思います。相対で条件良く買ってくれたのがありがたかったです。売却価格と分割割合、納税額がぴったりと合いびっくりしました。また、広大地を売るのがこんなに難しいとは思いませんでした。区画整理の時にまとめ過ぎたかなと思います。
日中、仕事もしているので、なかなか時間を割くことができません。福田さんからはこまめに連絡・報告があり、分からないことを相談しやすい時間を作ってくれました。
紹介者に感謝(Aさんの感想)
全財産を託すのですから、依頼するのにハードルがあったと思いますが、今回は信頼している親戚の紹介というのが大きかったです。実例が間近で見られ、その後の生活まで分かりますから。紹介してくれた親戚に感謝です。
二次相続対策まで考えたコンサルをしてもらい、将来も心配が無くなって良かったです。
これからも変わらず実家を訪ねられます(次女C子さんの感想 前編2012年4月号に掲載の内容に対応)
父親の相続で農業をやっていないのに農地を相続する事になっており、とても戸惑いました。また、借金付きのアパートを相続する事にも不安がありました。
私は家を出た者なので、資産のことは本家の人たちにお任せしていますが、本家のことと今後の自分の生活のことを考えた遺産分割にして欲しいと思いました。そこで、私が農地を相続する代わりに、アパートを無借金にして相続し、かつ母親の相続を放棄することを考えました。これなら本家と私双方にとって、良いと思ったのです。
福田さんに自分の考えを相談したら、とても良い案だとおっしゃってくださいました。また母親をはじめ家族も納得してくれました。嫁に行った者は判子代だけという話が多い中で、私の生活を考えた対策を行なってくれたみんなに感謝です。また、実際の手続きを聞くとやることが沢山あり、素人だけでは無理だったと思います。滞りなく進めてくれて良かったです。
遺留分放棄の申し立ては、一週間で判決が出ました。難しい審判だと聞いていたので、ホッとしたと同時に驚きました。申立ての際に何度も内容を確認されましたが、自分の意志をきちんと伝えました。
遺留分放棄の審判がおりてから、母親の遺言書を作成してもらうことにしました。母親の相続が起きた場合、遺産は本家のAさん、B子さんが2分の1ずつ相続すること、また、私は遺留分を放棄する旨を記載してもらいます。資産の持分がはっきりとして、ホッとしました。みんなにとって納得のいく相続が出来たので、これからも変わらず実家を訪ねられます。
今後の生活の目処がたち安堵(母親の感想)
ある程度落ち着いてから相続税の事を考えた時に、財産管理の事を誰も分からなくて、途方にくれました。書類の場所も分かりません。税理士さんは、農業を続ける方針で相続税申告の準備をしてくれ、尊重しようと思いましたが、農業もジリ貧、賃貸もジリ貧なのではという自分の不安が払拭できませんでした。
家族で相談して不動産コンサルタントに依頼したら、疑問に思っていたことを確認でき、不安がすっきりしました。父親の残した遺言はありましたが、みんなで話し合いで決められて良かったです。私は生活が出来る分があれば良いです。色々対策を行なっていただき、生活の収入の目処がたって、ホッとしました。
周りは家督相続が一般的ですが、他人の考えは他人のものなので、家族が一番幸せになるように、生活出来るようになれば良いと思っていました。次女の意向も聞いて、自分の時の相続で揉めないように出来たので、安心です。
今後の財産管理は生活を一にしている人だけで完結できます。法人のことは良く分かりませんが、税金や社会保険料が高いと思っていたので、家族で所得が分けられて良かったです。残った土地もあるので、今後の活用も考えて頂きたいですね。
■事業資産買い換え特例(コラム) (表4 9号特例の変更点)
「平成24年度税制改正大綱」が発表になりました。注目すべき点は事業用資産の買い換え特例が使えなくなるかもしれない点です。
租税特別措置法の「事業用資産の買い換えの特例」は資産の組み換え時に良く使われる特例です。青空駐車場の土地、市街化区域の農業収入のある土地も事業用と認められています。有効活用を考えた際、周辺の賃貸需要が悪化して立地が悪いと判断したら、その土地を売却し、立地の良い土地に収益不動産を建築します。そんな時、障害となるのは譲渡税20%です。その際に、事業用資産の買換え特例を使えば、譲渡税の8割が繰り延べされます。譲渡税20%の2割、つまり実質4%分をとりあえず払えば良く、残りの16%は将来売却する時にさかのぼって払うという制度です。これによりキャッシュの16%が余分に手元に残ります。キャッシュの運用能力がある人にとっては、非常に有益な特例です。
この租税特別措置法は平成23年12月末までの時限立法で、延長されるかが注目されていました。最も重宝な買換え特例の9号では、買換資産は国内にある土地等・建物・構築物・機械装置とあり、特に範囲が決められていませんでした。
今回の大綱によると特例は3年間延長されましたが、買換え資産についての条件がついて「土地等の範囲を事務所等の一定の建築物等の敷地の用に供されているもののうちその面積が300㎡以上のものに限定します。」とあります。
土地300㎡以上でオフィス等という条件を満たす土地は、駅前や都心に限られ高額となるため、この特例を利用できる人は大幅に減ります。
買換え特例のデメリットとしては、建物に組み換えた場合は減価償却が使えず、所得税・住民税が増税になる点です。また、特例を使わず税金を払っておけば相続財産も減るので、相続人にとっては節税となり、繰り延べを使えば相続人の相続税負担が多くなります。以上の点を踏まえて、慎重に利用してください。