連載「実践 事例で考える 不動産コンサルティングの進め方(35)」 ~相続資産を資産管理法人で運用~
福田 郁雄 株式会社福田財産コンサル 代表取締役
第35回 八王子市のAさん
~相続資産を資産管理法人で運用~
本誌平成24年4月号、5月号でご紹介した八王子市の地主さんのその後です。相続後に残った土地の活用の相談を受けて、その土地の有効活用も当社で企画することになりました。
土地の診断、企画コンペ、法人活用のご提案、借地権付きアパートへの投資の提案など一連のコンサルのプロセスをご紹介します。
-依頼者の状況-
依頼者は…
Aさん 60歳 農業、不動産貸付業 八王子市在住
B子さん 55歳 妻 農業、不動産貸付業
本誌平成24年4月号、5月号で紹介した概要は…
相続が発生、セカンドオピニオンとして当社に相談がありました。
① 遺言はあるが相続人の意向にそぐわないので、遺産分割書を作成して相続したい。
② 生産緑地を継続して納税猶予を受けた方が良いのか、解除して宅地として活用した方が良いのか。
③ 嫁に行った次女の要望である二次相続を待たずとも一次相続である程度の資産を相続して、二次相続は放棄してもらう。
以上の要望を受け、下記の提案を行いました。
① 配偶者控除を満額受けられるようにするために、母が1/2の資産を相続する。
② 次女にはアパート一棟とその借金を返済するための現金、大規模修繕のための現金、相続税と贈与税を納税するための現金を代償金で渡す。
③ 納税資金を捻出するために、生産緑地を解除して、入札により高値で売却する。
④ 二次相続のことも踏まえ、売却資金の大半を都心のビルに組み換える。
⑤ 資産管理会社を設立して所得分散を図り、母の所得税を下げる。
⑥ 二次相続のための遺言作成と次女の遺留分放棄の申立を家裁に行う。
全てが想定通りに進み、揉めないで遺産分割を終え、期限内に生産緑地の解除と換金が行え、二次相続対策用の都心のビルを取得することが出来、資産管理会社が軌道に乗り始めました。
ストレスの大きな一連の相続後対策と二次相続対策を完了し、一息ついた所で表題の相談をいただき、相続後の資産の運用について助言を行いました。
実際の展開は…
1.土地の診断と店舗の誘致
まずは要望を受け、ロードサイド店舗として活用してくれるテナントを当たってみました。土地の面積、全面道路の交通量、視認性、土地の高低差などを考えると困難な条件であることは間違いありません。しかしながら、当ってみなければ分かりません。店舗テナント専門の不動産仲介会社を通じて、オファーを求めました。反応は良くありません。ハンバーグチェーン店がこの地域を重点エリアにしていたので、出店の打診はありましたが、やはり交通量の少なさでキャンセルとなってしまいました。
土地の最有効使用を考えたところ、店舗では無く住居系であることが判明しました。
住居系の活用となればその選択肢は限られます。アパート、マンション、老人ホーム、グループホーム、保育園などです。
簡易的な商業系の建物は、投下資本が少なくてよいのですが、立地特性からここでの投資は困難であると判断しました。
2.企画コンペで土地活用を検討
では、限られた住居系の有効活用として、何が最有効使用となるのか検討することになりました。検討と言っても、実際の投下資本と収益が見えてこなければ判断のしようがありません。そこで数値を見て判断することにしました。
具体的には企画コンペを行い、それぞれの建築会社から提案をいただくことにしました。
企画の条件としては、
① 投下資本の上限は、土地価格の112,000,000円以下とする。
② ネット利回りが10%以上とする。(投下資本回収を10年の目標とする)
③ 借入金は極力少なくする。
④ 管理法人が土地を賃貸し、建物を所有する。
⑤ 年度内に事業開始ができるものとする。
以上の条件で業者から企画を集めたところ、木造3階建てワンルーム12戸、認可保育園、テラスハウス5戸、店舗、戸建貸家、高齢者賃貸住宅、グループホーム、倉庫付事務所、タイアップ分譲+組み換えと様々な企画が上がりました。
(図1 土地有効活用企画リスト)
企画としては、延べ10社のものが上がってきました。
市場性・収益性、メリット・デメリットなどの点から以下のように絞り込んでいきました。
1. 木造3階建てワンルーム21戸
賃貸マンションに比較して、投下資本が高いので利回りが高いのが特徴でした。近隣はファミリータイプが多いので、ワンルームは未知数という点が気がかりでした。投下資本が予算ギリギリで大きいことがネックでした。
2. 認可保育園
認可保育園は社会貢献もできるうえに、ニーズもあるし、投下資本のわりに収益性も良いので十分に検討に値すると思っていました。しかしながら、認可が必要で、出店できるエリアが行政に定められているうえ、土地の広さや運動場や避難施設の設置など、規制も多く、本当に事業が出来るかどうか読めない部分がありました。結果的には行政から認可されないためにこの企画は没になりました。
3. テラスハウス
予算も少なくてすむし、ニーズもありと判断しました。土地の利用度合いが低いことと、道路の取り付けなどの造成が必要なことがネックでありました。ワンルームほどの利回りが出ないこともネックでした。
4. 店舗
引き続き、店舗も当たりましたが、最終的には引き合いがなくて断念しました。
5. 医療住職者向け賃貸住宅
斬新な企画ではありましたが、裏付けの取れていないものでした。あえてギャンプルはできません。
6. 戸建貸家
最近ではパワービルダーが1000万円程度の予算で建ててくれるので、採算の取れる企画です。本件では、敷地に高低差があり、区画割が難しいので断念しました。
7. 高齢者賃貸住宅
アパート以外の提案となると、どうしても高齢者向け賃貸住宅の提案となってきます。投下資本が多いうえ、対建築費の表面利回りで8~9%では採算に合いません。これから競争が激化し、介護保険料や年金の資金不足を想定すると、リスクも高いと判断しました。
8. グループホーム
規模からすると良いかなあと思いました。社会貢献にもなります。しかし低収益力なので一歩踏み出すことはできませんでした。
9. 倉庫付き事務所
ロードサイドなので可能性ありと判断しました。最近では競争も激化し、賃料も下がっているので、かつてほどの利回りは期待できません。敷地に高低差もあることもあり検討から外れました。
10. タイアップ分譲+不動産投資
いわゆる組み換えです。賃貸需要が弱いのならば、土地を売却して、そのお金で不動産投資するものです。隣地の土地は相続時にマンションディベに売却し、そのお金を相続税の納税と都心のビルの購入費用に充てました。今回もそのミニ版を考えました。しかしながら、土地が風致地区でかつ地区計画が厳しいため、戸建用地としての売却も簡単ではありませんでした。
上記の企画の内、具体的に図面と見積りと賃料査定を行ったのは次のとおりです。(図2 対比分析表 概算)
建物単体のネット利回りは6.6%~9.9%です。三階建てワンルーム以外は、目標の10%には届きません。また、土地価格を含めたネット利回りになると、3.6%~6.9%です。資産の組み換えですと、6.9%~7.9%なので投資効率から考えると資産の組み換えに軍配が上がります。
有効活用では投下資本も大きいし、利回りも良くありません。資産の組み換えですと、最後に残った土地を失ってしまいます。帯に短し、襷に長しです。
散々迷ったのですが、どの企画も要望に満たないと判断し、あえて「何もしない」という企画を選択することにしました。
これは賢明な選択だったと思います。土地活用には「何もしない」という選択があって良いし、それが依頼者の利益になると判断したならば、そのような結論に至るのは自然なことです。
念のためにメリット・デメリット比較分析を行いました。「建てた場合のメリット+建てなかった場合のデメリット」と「建てた場合のデメリット+建てなかった場合のメリット」の総和が拮抗しています。
(図3 メリット・デメリット分析表)
感覚では無く、このようにまとめると分かり易くなり、判断がしやすくなります。
不動産コンサルタントの立場として「何もしない」を提案できることが大きな強みであり、依頼者の信頼を勝ち取ることにも通じます。
企画に参加していただいた方々には、この結論を丁寧に説明して、ご協力いただいたことに感謝を申し上げるとともにお役に立てなかったことをお詫びいたしました。
※注意:ここでは、それぞれの活用方法の優劣を言っているのではありません。土地の最有効使用は立地によって異なりますし、その時代の需給関係によっても異なります。また依頼者の総資産の運用バランスなども影響します。したがって、土地の最有効使用は個別に判断するものと考えてください。
3.現金の運用のご相談
上記の企画に結論が出た後に、今度は現金の運用についての相談が引き続きありました。
預かっていた相続資料をお返しに行った時に、ふといただいたご相談です。ご相談は依頼者から飛び込んでくることは少ないものです。ついで訪問のような時に、何かの縁で依頼がいただけるものです。
ご相談の内容は次のとおりです。
「相続で引き継いだ預金の運用方法について悩んでいます。預金のままではほとんど利息も付かないし、かといって銀行が勧めてくる投資信託も良くわかりません。いっその事ローンの返済に回そうか?場合によっては、不動産投資も良いと思っています。どのようにすれば一番良いでしょうか?」
良くあるご相談の一つです。相続資産の上手な運用方法について悩んでいる人は多いのです。
たまたま、このころ私が「相続資産の上手な増やし方 週刊住宅新聞社刊」という本を出版したこともご相談のきっかけになったのかも知れません。
最終的には借地権付きアパートを現金で購入していただくことになったのですが、その判断の元となったのは、国債とローンの返済とアパート購入の比較をシミュレーションしたことです。(図4 資産運用シミュレーション)
国債購入というのは、運用のベースとなる数値だからです。長期国債10年物の場合であれば、10年後に元本が保証されているという安心感があります。担保力もあります。利回りは0.8%前後ですが、今の時代、資産を減らさないということがベースにある考え方なので、利回りが0.8%でも資産の目減りの心配がないということは上等です。過去20年間多くの人は株や不動産で大きな損をしてきました。また、外貨預金や海外の投資信託で為替損を被り失敗しています。資産を減らさないで済んだだけでも大成功だったのです。ただし、インフレに振れた場合は額面は保証されていても、元本が保証されているとは言えません。
Aさんの父は10数年前に「定期借地権」を行い、その保証金を国債で運用した経験があります。当時3%程度の運用益でした。土地活用の中で最も成功したのが、「定期借地権」だったかも知れません。
次にローンの返済に回すというアイディアです。この方法も私は否定しません。ヘタな運用や、不良資産への不動産投資と比較したらはるかに優れているからです。
繰上返済すれば確実に金利負担が減ります。現在価値に割り戻したら、1%強の金利減になります。これは先ほどの国債より高い利回りということになります。しかしながら流動性が無くなります。
プロのアドバイスが得られないような一般の方であれば、繰上返済が一番確実で堅い投資です。(富裕層は手厚い助言が得られるので、一概にそうとは言えません)
それに対して不動産投資は、確実性が低く、ミドルリスクミドルリターンと言えます。上手くいけば良いのですが、失敗すれば元本の目減りを生じさせます。ブレが大きく不確実な要素も沢山あります。例えば、入居率、家賃の推移、現状回復費用、広告費、修繕費なのです。収入も支出もかなり流動的です。家賃保証があっても賃料改定があるので同じです。このようにブレが大きいことを金融の世界ではボラティリティーと言い、そのブレの大きさをリスクと呼んでいます。アパート経営はボラティリティーが大きいので、よほど確実に入居者が見込めるか、期待利回りが高いものでなくてはなりません。
そこで、アパート投資については、極めて厳しいシミュレーションと楽観的なシミュレーションの二つを算出しました。厳しめのシミュレーションで2%のネット利回りでした、楽観的に見ると7%でした。実際にはその中間の3~4%ではないかと想定されます。国債や繰上返済より高くなります。換金性もあるので、まずまずの数値ではないかと思います。ただし、建物はやがて古くなり滅失していくので、元本が目減りする投資ということを理解しておかなければなりません。もちろん土地や借地権は残ります。
これらの事を総合的に判断しての結論を出します。私としては優良な収益不動産の投資先が見つかれば行う。見つからなければそのままにしておくのが良いのではと考えました。
ということで、自分でも投資しても良いという基準で収益不動産を探しました。100件中3件が投資適格物件でそれ以外はパスです。
それにしても現金で購入するとなると真剣になるものです。手元のお金が無くなるわけですから。間違った判断はできません。全額ローンでアパートを建てる人が多いのですが、人のお金で建てるので安易な判断をし、あまり検討もせず建ててしまうのでしょう。
4.借地権付きアパートへの投資
予算は6000万円以下で現金で買えることがMUST条件です。それ以外の条件はプロにお任せするというものでした。お任せになると逆にやる気が出てくるのはプロの鮨職人と同じです。
現在所有している収益不動産は郊外なのでファミリータイプのものです。しかしファミリータイプは収益性が良くないので、ワンルームがお薦めです。ワンルームは立地が大変重要になります。都心の良い立地ですと、土地代に食われ利回りが悪くなるし、立地が良くなければ土地代は安いのですが入居の心配が出てきます。
その矛盾を解決したのが、借地権付きアパートでした。山手線の中で駅から5分以内、地下鉄駅も交差する大変立地の良い場所に見つかりました。(写真 外観)商店街も近く活気があります。6戸で6000万円以下です。新築、満室という申し分ない条件です。良くワンルームマンションが売りに出されていますが新築ですと一戸で2000万円を超えるものがほとんどです。この立地で戸当たり半額以下で買えるのです。
もちろん借地というデメリットはあります。ですがそれ以上のメリットを享受できると考えました。Aさんの父もかつて定期借地権を行いました。借地の基本的知識は持ち合わせています。新法の普通借地権なので法定更新があるので返還する必要は無く、所有しているのと変わりありません。約4万円の地代を支払うだけで、永遠に利用が保証されるのです。土地の固定資産税を支払わなくても良い事にも満足です。
今回の投資は現金の運用です。金融商品の感覚で投資先を決めました。所有や面子にこだわりません。投資効率が良いということで投資したのです。もちろん、都心の山手線の中で一棟もののアパートが持てるという満足感も付いてきます。
物件の特徴は土地面積が50㎡強と狭小敷地であったことです。建物が木造3階建て共同住宅の耐火構造というのも特筆すべき点です。新法の普通借地権設定という契約もレアです。
防火地域だったので、耐火構造にする必要があったのです。本来ならば鉄筋コンクリート造か重量鉄骨造でしょう。ところが借地であったので地主さんの意向もあり、非堅固と言われている木造住宅を強引に耐火建築物にしたのでした。外壁はALC35㎜に15㎜のサイディングを重ねて貼り付けています。耐火性だけでなく、防音性や彫の深いデザイン性も確保出来ています。鉄筋コンクリートのように鋼管杭を地中深くまで打つ必要もないのでコストダウンに繋がります。
土地が狭いので、6戸中4戸にはロフトが付いています。有効面積を確保しているのです。土地が狭ければ縦を利用して容積で勝負するというものでした。また、商業地域で防火地域なので建ぺい率は100%です。敷地に目いっぱい建てられるということも幸いしました。
設備にはバストイレ別・室内洗濯機置場・IHコンロ等入居者ニーズに応えているものです。よくぞこんな狭い敷地にバストイレ別のプランで6戸も建てられたのかと不思議です。プランニングの苦労が覗えます。
専有面積が小さいので、賃料は下げてあります。6万円前後で借りられます。近隣は8~9万円代が一般的なので、割安感が目を引きます。今後の入居の心配もありません。これで表面利回りですが、8%を確保しています。
なぜこのような優良物件が残っていたのかというと、土地が借地だったためです。借地の取り扱いは、普通の不動産業者や一般の人ではなかなか分からないため、敬遠されていました。銀行がローンに消極的な面があるという点もあります。
確かに借地権の場合、地主と借地人の間で揉めているという話も良く聞きますし、現実にそのためにお互い資産価値を下げてしまっているケースも散見します。そのために、契約書がしっかりしている事と地主の人間性が重要視されます。そこで、私は地主との借地契約書にこだわりを持ち文面を考えて提案しました。本件地主さんはいわゆる大地主さんと言われ、100区画にもおよぶ貸地を所有されているようでした。ほとんどが旧借地権の借地の更新ですが、今回は訳があり、新法の普通借地権を設定するというものでした。
売主の不動産業者が借地権付きの分譲アパートを販売するという形を取っているので、地主さんとは下記のような特約を付けておりました。
「借主は契約開始から18ヵ月以内に、本件土地に建築した建物を第三者に販売して借地権を譲渡する時は、事前に貸主の書面による承諾を得た上、適正なる第三者に借地権を譲渡できる。この場合、貸主は、1回に限り名義買換料の負担無く無償にてそれを認めるものとし、譲受人に対する賃貸借期間を名義買換時から30年とする。」としていました。
借地権の譲渡を一回だけ無償にし、そこから新たな借地契約がスタートするというものです。
新しく結ぶ契約書は貸主さんと私の間でやり取りを何度が行いました。貸主さんは旧借地権のプロです。そして私は新法の借地権のプロです。今回は新法の借地権を新たに設定するということになったので、貸主としてはいつもとは勝手が違ったようです。そこで、話し合いを行い最終的には下記のような特約を付けて契約に至りました。
特約 1.本契約は新法(平成三年十月四日法律第九十号)の借地借家法を適用する。したがって、借地権の存続期間は30年とし、更新する場合は最初の更新においては更新の日から20年、その後の更新については更新の日から10年とすることを確認する。ただし、当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間とすることを確認とする。(借地借家法の第三条、第四条に記載) 2.借主が将来「借地権付建物」を売却することになった時、新買受人が購入のためにローンの借入れを行う場合、貸主は金融機関の求める「借地に関する賃貸人の承諾書」等に対し、印鑑証明書添付の書面作成に協力するものとする。 ただし、貸主は賃料不払い等の契約の存続に係る事に関しては金融機関のお問い合わせにお応えするものとし、競売や公売などの抵当権執行による場合は事後の譲渡承諾とすることを双方確認する。 3.本契約にあたり、貸主・借主両者は、東京都暴力団排除条例の内容を理解していること、及び両者は自らが暴力団関係者などの反社会的勢力でない事を確約する。 本契約の対象となっている土地及びその土地上の建物、構築物などの使用、賃貸、譲渡などにあたっては同条例の条項に準拠するものとし、万が一、同条例に対する違背が明らかになった場合には、本賃貸借契約の解除を含め、同条例に基づいて処置することに両者異存なく合意する。 4.本物件上の建替えにより建物の用途が変わるなどして、小規模住宅用地の特例の適用が受けられなくなり公租公課(固定資産税・都市計画税)が増加した場合、その差額は借主の負担とし、差額を貸主に対し支払うものとする。 5.本契約には敷金の授受がないので、敷金に関する標記の文言は削除するものとする。 6.第9条の借地権の譲渡、転貸は法人についても適用されるものとし、法人の支配権が変更される場合(例えば第三者に法人を譲渡したり、株主構成が第三者に変更される場合等)も含まれることを双方確認する。なお、相続はこの限りではない。 7.第8条の修繕の通知義務にもかかわらず、乙の賃貸経営を維持するための日常的な原状回復工事や軽微な修繕はこの限りではない。 |
過去の色々な貸主の経験から、問題があったことに対して事前にその問題の芽をつぶしておこうという知恵がうかがえます。私は借主の立場で主張するべき点は主張しました。もし、その主張が通らないようであれば、物件は良くても不良資産になると考えたからです。幸い貸主の地主さんも聡明な方で理屈がきちんと理解していただける方でした。「このような地主さんなら安心ですよ。」とAさんにもお伝え、円満に借地契約と物件の引き渡しが出来ました。
コラム 旧法の借地権と新法の借地権の違い 旧法の借地権は、平成4年7月31日において借地契約が成立していたものです。旧法では建物を堅固建物(石造、土造、レンガ造、コンクリート造、ブロック造等)と非堅固建物(木造等)の2種類に区分しています。借地権の存続期間はあらかじめ定めなかった場合には前者を60年、後者を30年と定められています。更新後の存続期間は前者で30年、後者で20年です。この期間中に建物が朽廃したときには借地権は消滅します。 新法の普通借地権は堅固建物と非堅固建物の区別がなく、存続期間は一律に30年となります。貸主・借主がこれより長い期間を定めた場合には、その期間が存続期間となります。当初の存続期間が満了した後に借地契約が更新された場合には、1回目の更新後は20年、2回目以降が10年となります。貸主・借主がこれより長い期間を定めた場合には、その期間が存続期間となります。 |
5.法人で購入
AさんとB子さんは設立した資産管理会社に資金を貸し付け、法人でアパートを購入しました。今までは管理会社ということで、せいぜい家賃の10%程度しか売り上げにならないので、所得分散と母の所得税の節税効果が限定的でありました。そこで、今度は自ら不動産を所有する資産所有会社に移行を決めたのでした。資産所有会社であれば、100%売上が法人のものになります。
今後は減価償却が少なくなった母のアパートやマンションを法人に売却してその効果を高めることも検討しています。その最には簿価で建物だけを売買して、土地は普通借地権設定契約を結びます。これは今回取得したアパートと同じ結果となります。無償返還の届け出はきちんと提出しておき、権利金の認定課税がされないようにしておきます。
資産所有会社にした事によって、家賃収入が約40万円弱入ってくることになりました。実質無借金経営なので、給与を上げることが出来ます。母、Aさん、B子さん、そしてお子様の給与の増額が可能となりました。
家賃収入月額約40万円というのは、資産家にとってそんなに多くはないのかも知れません。しかしながら、今OLさんの給与が20万円の時代です。資産に働いてもらって、OLさん二人分の家賃が入ってくるということは大変な貢献をしているということです。
賃貸アパートの管理は、管理会社に全てお任せすることにしました。入金賃料の約3%ですべてお任せできました。賃借人からの細かい問い合わせに煩わされることからも解放されます。
その他、下記の手続きも管理会社にお願いすることができました。
・テナントへの所有者変更の通知
・テナントへの賃料振込先変更の通知
・電気、ガス、水道、ケーブルTVなどへの所有者変更の通知
これらの煩わしいことはプロの管理会社に任せたほうが得策と考えたからです。
資産所有会社になったのでプロパティーマネジメントを自分で行なう事も考えたのですが、少しの経費を節約して、自分の時間が減る損害の方が大きいのです。旅行中に入居者から、「水漏れ起こしたからすぐ何とかしてくれ」なんて電話が入ったら興ざめですからね。
依頼者の感想
以下に依頼者の感想を付け加えておきます。依頼者の視点が見えてきます。
数字のシミュレーションで納得
最初は、持っている土地の有効活用を考えおり、多くの業者さんに企画を出してもらいましたが、やはりここではこの土地の活用はやらない方が良いかなあと思いました。あそこで建物を建ててもリスクが大きいと感じました。福田さんは、一つの案だけでなく、複数の企画を出してくれて数字でシミュレーションしてくれるので、分かり易かったです。しばらく畑にして、農業を続けます。
最初は手持ちのお金でローンを返済しようとも思いましたが、良く考えてみると、そのお金で運用した方が良いのかなと思いました。購入した理由は、手持ちのお金でできることが大きかったです。すでにローンは抱えているので、これ以上借金をするつもりはありませんでしたから。当初は母親も共同で購入しようと考えておりましたが、母のお金を手元に残したいという気持ちを尊重し、自分たちだけの資金で購入しました。物件としては、面積は小さいですが、新築で場所も良かったです。近くに商店街もあり、人情味があって暖かい雰囲気が気に入りました。地主さんも良い人なので、その点も決断したポイントですね。
引き続きのコンサルでプロにお任せ
農業も続けていますが、最近は法人会に入会しました。税務研修で経費を上手く使えるように勉強したり、懇親会で同じような経営者の方とお話できるので刺激になりますね。地元に還元していくことも考えています。法人を設立したので、アパートの管理を自分でやることも考えましたが、福田さんのアドバイスに従い管理会社に頼みました。細かい管理はお願いして、自分は本業に集中できるので、良かったと思います。
福田さんに引き続きコンサルしてもらい、家族関係・状況・資産内容を分かっていただいているので、お任せするのも楽でした。自分達だけで考えるよりも、人のお知恵をお借りする方が間違いないと思いました。何よりも私達の立場で色々な事を考えてくれるので。