連載「実践 事例で考える 不動産コンサルティングの進め方(29)」 ~「宅地開発企画」と「明け渡し」の共同コンサル事例~
福田 郁雄 株式会社福田財産コンサル 代表取締役
第29回 世田谷区 Eさん
~「宅地開発企画」と「明け渡し」の共同コンサル事例~
不動産コンサルタントは全方位の知識が必要ですが、やはりそれぞれの得意分野・強みがあります。今回は不動産コンサルタント同士がタッグを組み、お互いの強みを生かして「宅地開発企画」と「明け渡し」の共同コンサルを行なった事例をご紹介します。
-依頼者の状況-
世田谷区の不動産コンサルタントEさん。地元で不動産業を営んでおり、本誌の読者でもあります。母親の実家である本家の親戚の所有する物件の管理も行なっています。親戚は自宅周りの土地でスポーツクラブを営んでいますが、ご子息は事業を継がないことが決定しており、今後事業をどうしようか考えていました。複数の賃貸物件も所有していますが、キャッシュフローが減ってきており、抜本的な対策をしたいと考えていました。
Eさんは抜本的なコンサルをしたいと考え、ノウハウを取り入れて最善の対策を打つために、資産家のコンサルに慣れており、宅地開発の経験のある当社とタッグを組み、役割分担をしてコンサルを実行することにしました。
依頼者は…
Eさん 38歳 不動産業経営 不動産コンサルタント
母親の実家である本家の資産管理を任されている。
本家の資産内容
・自宅(700㎡)
・スポーツクラブ事業用地(1,300㎡)
・駐車場 (2,000㎡)
・賃貸アパート 8棟
不動産コンサルタントEさんの考えは…
親戚の資産管理をある程度任されているのですが、親戚の状況を客観的に見てみると、固定資産税が高く、所得税や社会保険料も重いので、賃料が入っても手残りが思ったより少なく、今のうちに何とかしなくてはと思っている。
今後家賃が下がるし、空室が増える可能性も高い。借金が減るスピードがそれに追いついていないで、ジリ貧の恐れがある。
この際、抜本的な対策をして、低利用地、未利用地の資産を活用してキャッシュフローを改善しなくてはならないと考えている。
実際の展開は…
1. 現状をROA分析で判断
世田谷区の不動産コンサルタントEさん。母親が地元の地主一家出身です。ご自身は不動産業を営んでおり、本家である親戚の所有する物件の管理を行なっていました。本家の親戚はスポーツクラブを営んでおり安定的な収入はありますが、借入金の返済と税金を支払うと、手元に残るお金が少ないという悩みがありました。
Eさんご自身も不動産コンサルタントなので、対策を打っていくことは出来ます。しかし、身内のことなのでやりづらさがある上、抜本的な対策を行いたいと考えていました。そこで、資産家のコンサルに慣れており、宅地開発の経験のある当社とタッグを組んでコンサルを行なうことにしました。
まず、現地見学と財産診断(ROA分析)を行い、現状把握をしました。結果は、総資産と負債がほぼ同じで、債務超過寸前、一刻の猶予もないことが分かりました。収支は1億3千万円ほどありますが、借り入れ返済および税金を支払うと2千5百万円程しか手元に残りません。利益が出ていないのに税金だけ払っている状況です。
管理を任されていた賃貸アパート7軒は、ROA(総資産利益率)が10%になっています。ROAが低い資産は、自宅、スポーツクラブを営んでいる土地、自宅周りの土地活用で行なっていた駐車場、自宅近くの賃貸アパート1軒でした。これらは全て自宅に隣接している資産です。自宅周りの土地はそのまま保持したいという親戚一同の気持ちを尊重しているがため、資産価値に対し収益力が低い
結果となっていました。
しかし、このままこの状態を続けてはジリ貧になることは目に見えています。対策としては、これらの低利用地の資産価値を活かさなければなりません。まずはある程度土地を換金して借金を返済する必要があると判断しました。それにより、毎月の返済額が減り、キャッシュフローが生まれます。借入金比率も下げられ、資産の健全性も高まります。
2.問題点と取り組むべき課題
ROA分析から見えてきた問題点を整理すると、
・キャッシュが回っていない
・今後、所得税、都民税、事業税、社会保険料の増税が確実である
・大規模修繕の未実施による賃貸アパートの老朽化の進行している
・賃料の下落、経費の増加の予想される
資産価値に対して、フリーキャッシュフローが低いのは、借入金比率が高いこともありますが、最高税率の所得税にも原因があると考えました。
① フリーキャッシュフローの改善
②所得税、都民税、事業税の圧縮
③中期、大規模修繕費の捻出
をする必要があります。
具体的な低利用、未利用資産の換金による債務の圧縮方法としては、ROA分析の結果からROAの低かった自宅と自宅周りの土地を売却します。その売却益で借入金を返済します。一般的には、売却益で都心の収益不動産を購入という組み替えを提案する事が多いのですが、今回は債務を圧縮することがまず第一と考えました。自宅のある土地、スポーツクラブを営んでいた土地を含めての自宅周りの土地4,000㎡の売却をご提案する事にしました。つまり、自宅の土地の売却と事業の廃止を意味します。
これらのことは取り扱いが難しい内容です。決断するには大きな決意を必要とします。ご提案後は、Eさんと本家の親族とで何度も話し合いをしました。「何で自宅も事業も手放すことになってしまったのか」と奥様は泣いていたこともあるそうです。50年近く近所の方に愛されてきた施設で、スポーツ選手や芸能人のご利用もあり、その人達と会えなくなるさみしさもあったようです。親戚の方にとっては、自宅の引っ越しと廃業は、今までの生活が全てなくなってしまうように感じられたでしょう。
Eさんも親戚の気持ちは重々受け止めた上で、このままでは立ち行かなくなってしまうので、債務超過になる前に対策を打つことが今後の生活にとって大切であると時間をかけて説明しました。二大決心ですが、Eさんの説明により親戚の方にご納得いただけました。
そこで、当社とEさんの間で業務委託契約を結び、実行に移していくことになりました。
3.物件見学と開発コンセプト作り
売却する土地を検討した結果、売却先は戸建のデベロッパーが最も高く買ってくれるのではと想定しました。4,000㎡という広大な土地です。一つの街づくりが可能となり、それによって近隣の雰囲気を大きく左右します。売却する土地の隣に自宅を建て替えることにしたので、その土地の価値も街づくりによって影響されます。
そこで、福田、Eさん、親戚の方でいくつかデベロッパーの開発した土地を見学しました。いい街づくりをするために将来像をイメージするためです。
また、今回は自宅の引っ越しと廃業という二大決断をしたところです。そのような時は頭で考えているよりも、実際に見て、身体を動かすことによって気持ちの踏ん切りがつきます。動くことによって意識が変化に対応できます。
とあるデベロッパーが開発した区画は、とてもきれいに街づくりされており、親戚の方も将来の明るいイメージつくりが出来たようです。このように、当事者の意識のフォローも大切です。これも重要なコンサルのポイントの一つです。
その後、開発コンセプトづくりをおこないました。付加価値をつけ、デイベロッパーに評価してもらい高く買ってもらうためです。同時に、売却用地以外の自宅用地や残地を含め、全体像や、今後の新しい生活を作るにあたってのイメージを画く効果もあります。これには親戚の方の意見も盛り込みます。
コンセプト作成にあたり親戚の方に考えてもらいたいこととして、
①本家や地域の歴史を振り返り、伝統として継承していきたいものは何か?
②現状の利用状況から、地域全体を考慮した最有効使用は何か?
③これからの生活設計を考えたうえで、やって行きたいことは何か?
(本家の生活設計(人生設計)につながるもの)
をご確認しました。
作成した開発コンセプト(案)は下記のとおりです。
高値で売却できるプランづくりを行なうことを前提として、「開発地域内外の街の価値を高める開発を目指す」
□御親戚ニーズ
①残地と自宅用地と売却土地との調和を図ってほしい。
②良質な井戸水を活用し、地域住民に貢献したい。
③鎌倉時代から存続する古道にあり、歴史あるイメージを取り込みたい。
□方針
①街並みを統一するために一体開発する。
・残地と売却用地の双方の価値が高まるプランづくりを行う。
② 地の公園や●●駅から延びる街路樹のある沿道風景と一体化するような緑のボリューム感ある街づくりとする。
・自宅用地内にシンボルツリーを植える。
・開発地内宅地にも、大きくならない榎に類似した植栽のシンボルツリーを検討してもらう。
③ 自宅を効果的な配置にする。
・再スタートに相応しい、パースペクティブが画ける位置に置く。
・2世帯住宅(3LDK2世帯)or3LDK2戸が建てられるスペースを確保。
・隣地が接近しないように、窮屈にならないようにとのご希望
④ブランド力で価格を高められるデベロッパーのニーズに応えられるプランとする。
例えば、
・平均宅地面積 100㎡
・間口8.23m以上 理想8.68m以上(ミニマム7.77m以上)6.37+0.7+0.7
・5m道路を基本とする
・旗竿敷地の場合 駐車場設置場所を揃え開放感を演出 間口(2.7~2.75m)
⑤世田谷区の評価となるような開発とする
・近隣との調和や公園・区道との調和を図る。
4.入札方式および商品化による売却
以上のコンセプトを明示して、戸建デベロッパーに売却します。
なるべく高く売却する方法としては、
・競争原理を取り入れ、入札を行う
・測量、開発許可、明け渡し、解体を済ませて商品化しておく
の2点を行なうことにしました。
近隣の完成宅地の販売実績は平均単価坪133万円です。相続税評価額は、広大地評価で約50%減です。道路の減歩、造成費がかかるからです。したがって、坪66.5万円(20万円/㎡)を時価と算定します。売却面積は4,000㎡なので、20万円×4,000㎡=8億円。譲渡税20%を引くと、手取りは6.4億円です。
これでローンを返済すると、収支は減りますが、返済も減少するので、キャッシュフローは約30%増加します。ROAも6.2%から9%に向上します。
普通、相対で売買する場合、情報格差や経験の違いから、業者の言いなりの値段になってしまいます。今回は我々コンサルタントが入るので、賃借人の明け渡しを済ませ、土地の商品化をして、停止条件を決めて、入札を行なうことにしました。また、残地との整合性も考え、残地も生きる開発計画を作成します。
これらの商品化がきちんとされていれば、購入する方も造成費、立ち退き費用がかからないので、その分リスクが軽減できるので評価して購入してくれます。情報格差による差益を抜かれる事がなり、プロのコンサルを使う利点がここにあります。
具体的には、駐車場の明渡し、建物賃借人の明渡し、開発許可の取得、農地法の届出と受理通知書の取得、滅失登記をこちらで行なうことにし、デベロッパーの負担を減らし、検討・購入しやすくしました。
まずは、資料を作成し、説明会を開催しました。あまり情報をオープンにし過ぎると、本来入札して欲しい力のある業者が入札を控えることがあるので、入札情報は絞って公開しました。方針に合いそうな業者をこちらで選定してお知らせしました。
方針とは、①もっとも高く買ってくれる、②良い街づくりをして価値を上げてくれる、③資金的な調達能力があるところです。
「文書一枚でいくらです」ではなく、色々な条件やリスクも説明し、物件内容を良く分かってもらいます。より高値をつけてもらうためです。
過去の実績から4社に絞って声をかけました。結果的に今回は地場業者より大手デベロッパーに絞りました。
説明会では、
・入札の条件、スケジュール
・開発の事前協議の説明
・役所・区役所との協議の進行具合
・質疑応答
を行ないました。
30分ずつ4社に説明しました。紙切れ一枚では伝わらないものを、相対で説明する事によって、一緒にやっていこうという意識になります。
説明会の要綱は以下の通りです。
不動産売却説明会資料 この度、ご所有者の依頼に基づき、下記記載の不動産にいて、説明会参加者に対し売却いたしますのでご案内申し上げます。 記 【売主・所有者】 世田谷区●番●号 ●●様 抵当権者:●●銀行 【売却する不動産】 所在 世田谷区●丁目●●他 売却面積 4,000㎡ ※現況測量による概算値 ※別添、土地利用平面図、現況高低平面図等を参照ください。 【売却スケジュール】 ●受付期間 : 平成●年●月●日~●月●日 ※平成●年●月●日●時までに購入申込書を持参、または郵送(必着)でお送り下さい。(要封印) <購入申込書記載事項> ・購入希望金額 (最低価格●●●円=路線価●●千円×宅地面積) ・購入条件 ●優先交渉者選考 :平成●年●月●日~●日 ●優先交渉者決定 :平成●年●月●日 ※優先交渉者を決定し通知します。価格順に優先交渉する予定ですが、価格以外の購入条件等の内容によってはその限りではありませんので、ご了承下さい。 なお、優先交渉権者名・価格等については公表しません。 ● 売買契約締結 :平成●年●月●日 ※開発許可、明渡しの停止条件付契約となります。 ●開発許可、明渡し完了日 :平成●年●月●日予定 ●売買代金決済・引渡 :平成●年●月●日予定 【購入にあたってのご了解事項】 以下の事項をご了解の上、購入申込みをしていただくよう、お願い致します。 <物件に関する事項> ①実測面積での売買とします。引渡までに境界確認書を添付した確定測量図を交付します。確定面積による売買代金の精算を行います。 ②敷地内には、建物、構築物、井戸等がありますが、現況での引渡しとします。(解体費のお見積もり書がありますので参考にしてください) 建物はありますが、土地売買契約という形を取ります。 ③瑕疵担保責任についてはご相談させていただきます。 ④開発区域内については第29条の開発許可を取得のうえ、引渡しをします。地位の承継をするかもしくは、売主名で完了検査を受けます。 開発協議の進捗経過は適宜ご連絡いたします。 ⑤隣地からの越境物がある場合には、原則売主の責任で是正します。 ⑥敷地内には、都市計画道路が指定されています。事業決定はされていません。 <その他の事項> ①支払条件は契約時に10%、引渡し時に90%とします。 ②融資不承認による解除を停止条件とする特約はつけません。 ③最高購入申込価格が、最低価格に達しない場合には、売却を中止する場合があります。 ④売主は本物件について、弊社に売却代行を依頼しております。したがって売主への直接の連絡はご遠慮下さい。ご質問及び協議事項については、全て上記までお願いします。(できる限りE-mail または FAXでお願い致します) ⑤買受申込者は、売主から提供される対象物件に関わる秘密を保持する義務を負い、物件購入の検討に関わる者以外の第三者には一切漏洩したり開示したりしないものとします。 ⑥本案内は平成●年●月●日の説明会参加者のみ直接行っています。本物件の仲介や指定流通機構(レインズ)への登録は行わないで下さい。 ⑦開発や明渡しの進捗によっては、遅延する場合があることを予めご了承ください。 ⑧売主による敷地全体の活用についてイメージがあります。開発コンセプ案としてまとめていますので参考にしてください。 ⑨残地には自宅を建築する予定があります。御社の街づくりに調和する建築や外構工事を行います。 ●●銀行による抵当権抹消の内諾は口頭ベースで得ています。 |
開発プランはまず一つ作ってありました。入札期間中も随時プランを練り直し、少しでも道路の比率が小さくて南面道路が多く取れるなどよりよくなるプランを作成し、良いものが出来たらデベロッパーに送っていきました。最終的には5プラン出来上がり、一番最後に出来た図面に一番高い札が入りました。
今回の土地は4,000㎡と大きく、かつ建ぺい容積が40/80、50/100、60/200にまたがった非常に複雑な土地でした。建物の面積を90~100㎡と想定し、それに合致する土地の面積を定めなくてはなりません。
また、敷地延長の土地を取るかどうかでも有効宅地率は変わります。敷地延長は一般的に条件の悪い敷地と言われていますが、都心では、敷地延長でも隣棟間隔を考えて建売住宅にすればそれほどハンデにはなりません。この様な事を踏まえ、トータルに価値の高くなる図面を作成していきました。
デベロッパーに価格検討していただきながら、同時進行でプランを良くするというイレギュラーな事を行ないました。計画進行と入札が同時進行という非常にイレギュラーな入札となりましたが、そのお陰で高値になりました。
4社から札が入り、その中で一番高い札を出してくれたデベロッパーさんに決定しました。以前見学をした時に、良い街つくりをしていると思っていたデベロッパーさんだったので、Eさんも親戚も結果に満足出来ました。札も1億円以上の差が出たので、やはり入札を実施したかいがありました。
何度もプランを書き直してくれた宅地開発を担当した測量士に感謝です。
5.建物賃借人の「明渡し」と駐車場の明渡し
売買契約が締結されたので、引渡しまでに賃貸アパート1棟の建物賃借人の明渡しと個人と事業用に貸している駐車場、および店舗の明け渡しを行ないます。こちらはEさんが担当しました。
明渡しは、とても難しい仕事です。例えば、50件明渡ししなければならなくて、その内49件が上手くいっても、あとの1件が明渡しに応じなければ全ての土地が売れなくなります。不動産・法律の知識や、忍耐力、交渉力が必要ですが、それにもまして肝も据わっているなど人間力が問われます。相手に好かれなくてはいけないですが、お人よしでもだめです。交渉時には毅然とした態度を取ります。相手の心理を考えて計算しつくして交渉する必要があります。あらゆるレベルが高くないと出来ない仕事ですが、Eさんはそのプロ中のプロと言えるでしょう。
まずは、賃貸アパートの明け渡しです。借家人は、借家法で保護されているので、立場が強いです。Eさんは、まずは向こうの条件を聞くそうです。こちらからは具体的な条件は言わず、相手の条件にすり合わせます。賃借人は突然の引越しで、様々な手間・引っ越し代・契約金がかかるので、賃借人にその実害がないようにします。しかし、大切なのはお金の多寡より相手の立場をきちんと考えることです。
Eさんの交渉力でアパートの賃借人の皆さんの明け渡しがスムーズに終わりました。本家の親戚が所有している他の賃貸アパートへ引っ越してくれた方もいたそうです。今まで大家さんとして良い付き合いをしてきた結果でしょう。
周辺賃貸物件の家賃が下がっていて、引っ越しをした方が賃借人にとっても家賃が安くなるというデフレ時代の恩恵がありましたとEさんは謙遜していらっしゃいました。
事業用に貸している駐車場は、4トントラック3台です。こちらもEさんが新しい駐車場を探しましたが、条件に合うものが見つかりませんでした。結局賃借人の方がご自身で探して来られ、解約していただけました。駐車場代は下がりましたが、場所が不便になったと残念がっていました。
個人の駐車場20台は、契約上一ヵ月前に解約を伝えれば良いですが、3か月前に通知しました。その上で、駐車場扱う不動産業者が少なく、代わりの駐車場を探して欲しいという方が多かったので、Eさんがそれぞれ探してあげました。この近くの駐車場空きがあり、しかも代金が安かったので助かりました。解約の理由は売却するときちんと伝えたので、皆様ご納得の上速やかに引っ越ししてくださいました。
以上のように、期限以内に全ての賃貸アパート、駐車場(個人)、運送業者に賃貸していた駐車場(トラック)、店舗の明け渡しが終わりました。Eさんは、期限よりかなり早めに終わらせて、店舗の明渡しに集中しました。
最後は店舗の明け渡しです。店舗の場合は営業権があり、また難しい交渉になります。一般的には、その場所にあるから営業している、今までの大事なお客様とのお付き合いなど既得権を主張するテナントの方もおり、店舗の立ち退きは大変です。
最初は店舗を別の場所に移転してくださいと交渉しました。それに対しては、「困る」という返答だったので、ある程度の検討する時間をおいていると、「土地を売却してくれ」という話がありました。土地を売ることも検討しましたが、相場の1.5~2倍の値段なら売却しますが、そこまでの値段は望めないことと、親戚より「絶対に売りません」との返答があり、その話は無くなりました。実際、売ってからも問題が出てくる可能性があり正解でした。
結局、Eさんは機が熟した頃合いを見計らって、別の所に店舗を作ってそれを賃貸する提案をしました。建設に800万円、移転費用250万円も別途支払い、1千万円以上の出費です。
テナントは、今までより便利になりました。こちらは、2年で回収できる投資で、効率の良い有効活用になりました。
店舗の交渉には時間はかかりましたが、こじれることはなく交渉が済みました。
テナント側は、お客様のご提案で弁護士を間に入れる話もありましたが、結局は争うより話し合いで解決する選択をしました。さすが、商売人です。テナントさんも賢い選択をしました。
アパート、駐車場、店舗と難しい明け渡しの案件でしたが、期限までに問題なく全て終わりました。これは極めて珍しいケースです。
実は、Eさんは立ち退きを何百件と扱っていますが、立ち退き期限を過ぎた事がないそうです。今回は身内で一番やりにくかったそうです。いずれは売ってくれる約束をしていたと昔の祖父の約束を持ちだすテナントの方もいました。そのような時は、鵜呑みにしないが無碍にもしない、その対応が難しいそうです。
これは、Eさんが様々な資格を取り、勉強したことも役だっているそうです。不動産コンサルタントの認定はもちろん、日本ファイナンシャルプランナー、ビル経営管理士、産業カウンセラーの試験も合格しています。この中で、積極的傾聴を学んだことも大きく仕事に役立っているとおっしゃっていました。カウンセラーとコンサルは違い、カウンセラーでは問題の解決はできませんが、アプローチとしてとても有効だと感じているようです。
Eさん自身、腹が据わっている印象です。立ち退き交渉には、人間力と困っている人を助ける姿勢が必要だと教わりました。Eさんがもともとテナントさんといいお付き合いをしていたことも大いに働きました。
6.開発計画
今回のもう一つの主人公は宅地開発を担当した測量士です。こちらの様々な要求を受け止め、大変活躍してくれました。
測量士が行なってくれた工程は、以下です。
・現況高低測量
・境界確定測量
・世田谷区 開発行為・宅地造成の事前相談書 提出
・世田谷区 開発行為等連絡調整会議開催
・上記 調整会議の結果報告 受領
・各種 条例事前協議~協議申請・受領
(小規模宅地、清掃関係、特定公共施設整備計画、みどりの計画等)
・東京都 下水道局 32条同意・協議 同意書取得
・東京都 環境局 自然保護条例の保護と回復 事前相談等協議
・東京消防庁 世田谷消防署 32条同意・協議 同意書取得
・世田谷区 都市計画法第32条 同意・協議申請~締結
・世田谷区 都市計画法第29条 開発行為許可申請
・同上 開発許可書 受領
その後
・農転 地位承継
開発の際、その地域の開発の許認可の条件を調べて、開発の制約の中で最も単価が高くなるような図面が描けるかが成否を分けます。道路の取り方一つ、区画の大きさ、間口、奥行きによって値段が変わるからです。道路づけ、日当たりが良く、有効宅地比率がたくさんとれる図面が必要です。
さらに、上記のように様々な役所との交渉があり、これらをスケジュール通りに、かつ失敗なく済ませることはなかなか出来ません。
今回は、当社のツテで2社候補を挙げ、今回の計画を説明してより共感を得てくれた測量業者にお願いしました。
こちらの要求を読んだ図面を作成してくれ、かつ細かい変更に合わせて開発プランを5プラン作成してくれました。結果的に越境、折衝、隣地の判子をもらう、境界の確認も全てやってくれました。近隣や役所と折衝も上手で、スケジュールは3回変更はしましたが、時間通りに全ての工程を終わらせることが出来ました。地元で力のある測量士だったので、最後は顔を利かしてくれたようです。良い開発・申請業者にお願い出来て大変助かりました。この結果に金融機関も驚いていました。
宅地開発の時は、このように実力のある測量士にお願いしないとうまくいきません。測量士が成否の8割を握ります。実績と人間力がある優秀な業者と組むのが大切だと実感しました。
開発申請の業務委託料は値づけが難しいです。200万円程度~800万円程度と測量士によって幅があります。最も高く売れる図面を作ってもらうことが最重要だったので、業務委託料を値切ることはしませんでした。何度でも書き直しをお願いして、それにきちんと応えてくれる測量士でした。
7.コンサルの結果
土地の売却のための商品化、つまり最適な区画プランで開発許可を取っておくこと、明け渡しを済ませておくことによって、当初の想定価格を超える価格で売却をすることができました。
このことによって、親戚は負債を減らすことができて、毎月の支払が300万円以上少なくなり、余裕資金が生まれることになりました。ROA(相続税評価ベースの総資産利益率)で見ると、6.2%から9%に向上することができました。資産を圧縮したことにより、総資産利益率が向上したのです。この数年アセット・ライトによりROAを高める企業が多かったのですが、個人でも同じことが言えます。
また、不動産コンサルタントのEさんにとってみれば、頭では計算上分かっていても、親戚に対して具体的に行動を促すことができなかったのですが、結果的に喜んでいただける提案を実行に移してもらすことができました。
既存のアパートの修繕費も捻出していただくことができたので、最近厳しくなってきた入居者の斡旋もしやすくなりました。
今回の件で親戚からの信頼も厚くなり、今後の管理は一括借上げによる管理に変えていただき、全面的な資産管理を任せられるようになりました。
依頼者の感想
以下に依頼者の感想を付け加えておきます。依頼者の視点が見えてきます。
■本家の親戚の感想
先祖から遺してもらった土地やアパートや、本業での収益があるのに、何故か手元に残るお金が少なくて、疑問に思っていました。今回、全ての資産をしっかりプロにチェックしてもらい、その理由が分かり納得出来ました。このままでは債務超過になるとうかがい、自宅のある土地の売却と本業の廃止を決めました。
最初は現状が信じられませんでしたが、見学などを通して売却後の新しい自宅や自宅周りの開発のイメージが分かったら、やっとホッとできました。開発コンセプトに私たちの意見もきちんと盛り込んでくれた点もありがたかったです。
事業はなくなりましたが、借金も少なくなって肩の荷が降りました。また、手残りの現金が増えたのもうれしいことです。自分で事業をやっている時より、精神的にも経済的にも安定した生活ができます。定年退職をしたと思って、今後は生活を楽しむ事を始めようと思います。
■不動産コンサルタントEさんの感想
共同事業でやってみて、とても勉強になりました。開発という単なる仲介ではないので、経験できないことが経験できました。
福田さんとは、上手く役割分担ができ、自分のやること・得意分野に専念出来ました。個人的な感情が入ってしまう分、身内はやりにくかったので、その点でも第三者の福田さんが入ってくれて助かりました。
私が言うより、福田さんが行った方が伝わる話もありましたね。