連載「実践 事例で考える 学ぶ不動産コンサルティングの進め方(9)」 ~大型定期借地権に挑戦し、価値観を変えて公務員から資産経営者へ転身
福田 郁雄 株式会社福田財産コンサル
第9回 千葉市 Hさん
~大型定期借地権に挑戦し、価値観を変えて公務員から資産経営者へ転身~
千葉市で専業農家を続けてきたH家。代々専業農家を続けてきましたが、農地にも宅地並み課税がかかることになり、固定資産税の負担が重くのしかかることになりました。そこで大型定期借地権に挑戦しました。定期借地権で得た保証金でアパートの無借金経営を実現させました。依頼者の性格を考慮し、ストレスの少ない資産設計を構築した事例として紹介します。
-依頼者の状況-
依頼者は…
Hさん40歳公務員。典型的な三ちゃん農業を営んでいました。収入は公務員の給料とアパートの借金返済後に残る家賃収入です。広大な土地を所有していましたが、そこからの収益はありませんでした。
千葉市内に
千葉市内に
①山林 8,000坪
②アパート2棟
依頼者の要望は…
① 農地への宅地並み課税が始まり固定資産税の負担が重くなるが、農地は手放したくないので対策を考えてほしい。
② 土地の評価額も莫大になるので、相続税の対策も含めてアドバイスをお願いしたい。
実際の展開は…
① 養子縁組で相続飛ばし
千葉市にお住まいのHさんの家は代々専業農家を営んでこられましたが、Hさんが公務員となられたため、典型的な三ちゃん農業を最近までは営んでいました。とは言え、お祖父さんの代から、すでに相続対策は進めていました。お祖父さんとHさん及びHさんの奥さんが養子縁組をすることにより、昭和62年に発生した相続時にはお父さんとHさんと奥さんの3人が相続されることで、次の相続発生時の負担を軽減する対策が採られたのです。つまり、一世代分相続飛ばしをおこなっていました。
同時に、次の相続対策としてアパート2棟を建てて、それ以来、20年近くも経営されています。しかしその時点では、相続対策もそこに留まっていたのも事実です。
そのHさんが土地活用を真剣に考え始めたのは、農地の宅地並み課税が迫ってきた時点のことです。このままでは、農地に莫大な固定資産税がかかってしまいます。
「公務員としての給料が全部、固定資産税で持っていかれてしまう。そんな危機感がありました」とHさんは、今では笑って話してくれますが、当時は本当に切羽詰った危機感をお持ちだったのです。
しかも、売るにも売れません。売却すると当時は税金で39%も取られてしまったからです。もちろん、古い農村ですから売却すると周りからいろいろと言われてしまう、という問題もあります。
②定番のアパート建築で相続税の節税
私がHさんと初めてお会いしたのは、そんな時でした。
Hさんの奥さんが、ある銀行が主催した「宅地並み課税対策」のセミナーに参加され、そこに講師として招かれていたのが私だったからです。
特に問題となったのは約8,000坪の山林です。その土地が区画整理され、換地後には1区画65坪の土地が55区画となって返ってくることが分かっていました。そうすると、莫大な固定資産税がかかります。そのままでは評価額も莫大になり、相続時には売却しなければならなくなります。
「先祖から伝えられたものだから売らないで残したい」。
そういう思いがHさんには強かったのです。
そこで私が、この土地をどう活用すれば固定資産税を軽減して安定した収益があげられるのか、そして次の相続時の相続税を節減できるのか、その対策を提案させてもらうことになりました。
まず最初に、お父さんが亡くなった場合の相続税の試算をしました。Hさんの奥さんはお祖父さんと養子縁組をしているので、相続関係図で表すと兄弟姉妹であるものの、実の親子なので相続を受けることができます。Hさんの奥さんには妹がいますので、相続人は2人です。
父の持分だけを試算すると、約10億円の評価となりました。配偶者が無く子供2人への相続なので、相続税はおおよそ3億7,000万円となります。ほとんどの財産が、父とHさんそしてHさんの奥さんと三分の一ずつ共有で持っている状態でした。
そこでまずは、共有物の分割を行いました。共有物にしたままだと所有関係が複雑になり、将来の売却や活用も全員の合意が必要となって、最悪の場合には塩漬けの土地になってしまう可能性があったからです。
そして収益力、節税力を考慮して、最初に提案したのは5棟のアパートを建てることでした。住宅地としては閑静な環境ですが、駅から遠いためファミリー向けの仕様とし、住宅金融公庫の賃貸向け融資を活用しました。今から思うと30年間の固定金利は恵まれた条件でした。
賃貸マンションにしなかったのは、投下資本を小さくして、回収を早めるためです。
この辺りもバブル時には多くのアパートが建ち、競争が激しくなっていました。差別化として建物の外観を一戸建て風にし、外構にも力を入れることによって入居者の支持を得られる工夫をしています。
賃貸管理は大手の賃貸管理会社に依頼しました。公庫を活用しているので、礼金や更新料収入が得られないため、賃貸管理会社は家賃保証に難色を示しましたが、15%の管理手数料を支払うことによって一括借り上げをしてもらうことができました。一括借り上げにこだわったのは手間や空室の心配をしながらの生活が嫌であったからです。資産経営を始めたばかりなので、借金をするだけでもストレスなのに、空室になるたびにストレスを感じるのは避けたかったからです。
経営効率を考えれば、管理だけお願いするほうが儲けは大きいのでしょうが、精神的なストレスの負担軽減は、公務員のHさんには重要だったのです。
2億円の投資に対し、土地の評価減が18%、建物の評価減が約60%となるので、金額にすると丁度投資額と同じ2億円程度の評価減となりました。相続税評価が8億円に下がったので、納税額は2億7,000万円となりました。約1億円の節税です。アパートが半額で建てられたのと同じ効果と言えるでしょう。利回りは10%だったので、節税の効果を含めると利回りが20%となります。
このことを私は税効果利回りと呼んでいます。節税効果の高い大地主さんがアパート経営を行うとなると、このようなメリットが享受できるのです。
③大型定期借地権に挑戦
しかし、それはほんの第一歩でしかありません。55区画の内の8区画にすぎないからです。
そこで次に提案したのが、当時ようやく施行されたばかりの定期借地権の活用でした。まだ事例はほとんどありません。その意味では、「こうなりますよ」と成功例を示すことができないので、頭で理解してもらうしかありませんでした。保証金が入るメリット、固定資産税が軽減できるメリット、必要なときには底地を売却できるメリットを説明しました。抽象的な法文や制度を拠所にして仕事をされる公務員という仕事柄なのでしょうか、この点で、きわめてすっきりと納得してもらえたのが今でも印象に残っています。
保証金は返却しなければなりませんが、それでアパートのローンを返済すれば、保証金でアパートを建てたことになります。アパートの賃料収入で十分に返済することが可能です。しかも、今はデフレですが、50年の長期で考えればインフレが進んでいると考えられます。
さらに、いざという時には貸している人に底地も売却できますし、あるいは契約が解除された場合には更地にして売却も可能です。
④定期借地権で得た保証金で無借金経営
定期借地の概要は、1区画65坪で45区画。1区画の保証金は平均800万円で地代は月額2万9,000円でした。土地付分譲住宅だと当時はその周辺で6,000万円前後しましたが、同じ土地で定期借地権にすると3,500万円~3,600万円になります。借主にとってみれば、分譲の6割程度の金額で自分の家に50年間住めることになります。
3期に分けて募集したのですが、申込で5倍位、実質で3倍位の応募があり、すべての区画が順調に決まりました。
保証金の総額は約3億7,000万円になります。この保証金は50年後に借主に返還しなければなりませんが、それまでは自由に運用することができます。
利回り2%で運用できれば、50年間で保証金分に相当します。それを超えた分が、収益となるわけです。
金融商品などでの運用ももちろん可能ですが、Hさんの場合にはアパート建築時の借入金返済に充てることにしました。それが2億円程度ですから、まだ余りがあります。その余った資金で、別の場所に貸し店舗も作られたのです。
また、年間の地代は土地価格の1%が相場です。Hさんの場合には2万9000円が45区画ですから1,500万円前後が年間の地代収入となります。
さて相続対策から見た定期借地権は、どのような効果があるのでしょう。定期借地権の設定により、土地の評価が40%弱軽減されました。保証金には現在価値を差し引いた分が課税の対象となるので約20%の増税となります。したがって差し引き20%の評価減です。アパートの貸家建付け地による評価減と同じような効果といえます。大きな借金をすることなく、これだけの節税メリットがあるのなら納得の行く線と言えるでしょう。とりわけ郊外の広大な敷地には借入リスクがない対策のため、規模がいくらでも大きくできるという点も、忘れられがちですが大きなメリットです。
⑤土地活用も経営感覚が必要
Hさんの活用状況をまとめると、次のようになります。
区画整理地では定期借地45区画、アパート4棟、駐車場1区画分、区画整理地以外で都市計画道路予定地に駐車場(約50台分)、アパートが3棟、貸し店舗が1軒という内訳です。
これらから上がる収益を合計すると、年間数千万円。無借金経営なので、大半は手元に残ります。相当な収益だと言えるでしょう。
普通の土地として置いていただけでは、固定資産税だけが膨大にかかっていくところを、定期借地権とすることで地代収入を得ることができるようになりました。また保証金もアパートや貸し店舗の建築資金に充てることで、収益を生む資産への組み換え(リストラ)が進みました。
土地活用のコンサルタントをしていて、一番大切だと感じることは地主さんが自分で意思決定できるということです。それができなければ、いつまでも何もできないままに経過してしまいます。何かすることもリスクなのですが、何もしないことのほうがはるかに大きなリスクであることを認識しなくてはなりません。Hさんの場合は、その意思決定をすばやく行えたことが、成功の前提だと言えるでしょう。
古い倫理観と訣別されたことも大きなポイントです。
日本では、勤労所得や年金所得は高く評価されますが、資産所得については「不労所得」として、あたかも不当な所得であるかのように見る風潮があります。そのような古い倫理観に縛られている限りは、なかなか積極的な土地活用ができませんし、意思決定を行うこともできません。
合理的に考えれば、資産を活用して収益を生む。それは企業経営者が資本を活用して利益を生むのとなんら変わりはないわけです。
そういう発想に立ったことが、意思決定を可能にするベースになったのではないでしょうか。
もう一つ挙げれば、ご自分の価値観に沿った選択をされていることです。いくら収益が上がろうと、自分の価値観に合っていない選択では幸せにはなれません。その点で、ゆとりを持って経営できる範囲で進められておられることも、Hさんの場合には成功の要因と言えると思います。
Hさんの原点は無借金経営です。「金利が経費になるから、借入をした方が有利ですよ」と銀行員の声に耳に貸すことはありません。経費はあくまでも出費、出費を抑えることがキャッシュフローを高めることを理解しています。キャッシュフローを高め、その中から税金を納める方が最終的に手元に残るお金が多くなるのです。
⑥人生を楽しむ
では、Hさんの生活はどのように変わったのでしょうか。
Hさんは、土地活用を開始されてからも平成13年まで公務員の仕事を続けられました。以前の収入は、毎月の給料と2棟のアパートからの家賃だけでした。その2棟の賃料もほとんどがローンに消えていきます。それが、今では不動産収入だけで信じられないくらいの金額になっています。活用前とは、家計の状況も大きく変化しました。
無借金経営を続けてきたHさんですが、実は最近方針を大きく転換しています。ここに来て2億円の借金をし、東京の都心に一棟売りの賃貸マンションを約3億円で購入したのです。頭金の1億円は定期借地権の底地の売却と駐車場用地を一部売却することによって捻出しています。なぜ、今ごろ都心の一棟売りマンションを購入したのでしょうか?
Hさん曰く「このあたりの地価はドンドン下がっています。ピークからすれば1/3ぐらいでしょうか? ところが最近では都心回帰現象が進み需要が都心に移っています。都心は地価が下げ止まっています。今のうちに郊外の土地を処分し、都心に資産を持つことが得策だと考えたわけです。」
確かに路線価はピークの1/3となっています。そのお陰で相続税評価も下がり、相続税の試算額も減少していました。一棟売りマンションの名義はもちろんお父さんにしました。そうすることで、お父さんの相続税評価はゼロにすることができ、これまで進めてきた相続対策の完成を見ることができたのです。
Hさんは素直な性格で温厚な方です。コンサルタントとして様々なご提案を差し上げましたが、すべてご自身で良く理解されてから、自分の価値観に沿った選択をされています。考えすぎて行動に移せない資産家が多いのですが、Hさんのクレバーさと行動力が際立っていました。
⑦区分マンションを8戸購入
ある程度不動産収入がたまったので、Hさんは賃貸マンションの借金2億円を返済してしまおうと考え、また当社に相談がありました。まずは現状分析してみましょうということで、物件毎の評価と収益性を算出しました。当社でいうROA分析という手法です。現状のキャッシュフローは年間3,800万円、ROAは3%でした。ローンを返済した場合をシミュレーションしてみると、賃貸マンションの借金の返済が無くなるため、キャッシュフローは4,900万円に上がり、総資産も減少するためROAも3.4%に上昇します。また、借金が無くなるため、せっかく増えたキャッシュフローの税金対策が必要になってきます。
そこで、借金を返済せず区分マンションを2億円分購入した場合をシミュレーションしてみました。自己資金は5,000万円として1億5,000万円借入とすると、キャッシュフロー4,500万円、ROAは3.5%と向上しました。
一棟ものの収益不動産ではなく、中古区分所有ファミリーマンションを複数購入した理由は、リスク分散です。
一棟ものですと、地震、事故、環境変化などリスクが集中します。ところが、区分マンションを複数持つということであれば、一つの物件に何かあったとしても、残りの物件がカバーしてくれます。不動産版ポートフォリオです。
新築ではなく、中古にした理由は、価格が下がりにくいからです。築後10年間は下がる一方ですか、10年後くらいから価格が安定してきます。
入居付のものを購入したのは、収益が最初から入るということもありますが、空室のものより、格安で買えるという点に魅力があります。入居者が退去し、マイホームとして考えている方へ実需で売ると、転売益が期待できます。
山の手線沿線で立地が良いというのも魅力です。郊外に資産をたくさんお持ちなので、資産内容を都心に比重を移していったのです。
最も大切な利回りですが、修繕積立金、管理費、固定資産税を除いたネット利回りで7%でした。ひょっとすると持っている敷地にアパートを建てるよりも高い利回りかも知れません。
借金を返して無借金経営に戻すこともできたのですが、すでに安定した収入が入ってきているので、多少のリスクを取ってでも打って出るほうが有利であると考えての行動でした。
結果的には収益力、換金力、節税力のある理想的な投資を実現することができました。
⑧資産経営者のマインドを持ったHさん
Hさんは一連の資産設計を通じて、頭の中に資産経営者のマインドが生まれてきました。
Hさんの利益に対する捉え方は、他人と異なります。通常、一年間の「売上」-「経費」を利益とします。
ところがHさんは、貸借対照表の「今年度の純資産」-「昨年度の純資産」を利益として考えています。
賃貸収入の増加分と資産価値の増減分を合わせてみているのです。この考え方はまさにファンドのアセットマネージャーの考え方と同じです。所有する純資産をいかに高めていくかに着目しているのです。
さらに、今年、資産管理法人を設立しました。ねらいは所得分散による所得税の節税と相続税対策です。課税所得1000万円を超えたならば、検討する価値があります。古い建物から名義を順次法人に移転していく予定です。消費税の課税のことも考えながら、タイミングを図って行ないます。
株主は子供です。株価が上がってしまっては意味がないので、最初から相続人が株主となったのです。
すべての資産が法人名義に変わった時点で、次の相続対策は終了です。現実的にはすべての資産を法人にすることはありえませんが、方向性として考えていることです。
ある意味、一種の生前贈与かも知れません。ただし、代表者はHさんなので資産経営そのものはHさんの大切な仕事です。
依頼者の感想
以下にHさんの感想を付け加えておきます。依頼者の視点が見えてきます。
コンサルタントとの出会い
「先祖から伝えられたものだから土地を売らないで残したいという気持ちでした。が、このままでは公務員としての給料が全部、固定資産税で持っていかれてしまう。そんな危機感がありました。しかし、どうしたら良いのか分からず悩んでいたところ、偶然セミナーで出会いプロにお任せすることになりました。自分一人でしたら何をどうすれば良いか皆目検討が付きませんでした。」
定期借地権について
「以前は、土地は貸したら返ってこない。だから貸してはダメだというのが常識でした。でも定期借地権なら絶対に戻ってくるという制度的な裏づけがあったので、思い切ってやってみました。しかし、50年はつくづく長いなあと感じています。賃料の増減額交渉や競売、底地を借地権者に売却するなど、色々ありましたが、その都度コンサルタントに相談しながらできるので、気が楽です。」
人生を楽しむ
「色々と仕事上の責任もあったので、仕事を辞められませんでしたが、もっと生活を楽しもうと思い早期退職しました。一番嬉しいことは、時間の余裕ができたことと、税金のプレッシャーがなくなったことです。特にアメリカ旅行は、仕事を辞めてから毎月のように行っています。レンタカーを借りて、好きなところを見て回るのが楽しいですね。以前は年に1回、5日間程度がせいぜいだったので、夢のような境遇です。将来は、アメリカにも賃貸物件を持って、それから住まいも持って、1年の半分を向こうで暮らせるようになれたらいいですね」。
■コンサルのポイント その25 人生設計の“手助け”醍醐味
あるクライアントさんはこんな夢を語ってくれました。「今の不良債務と不動産の問題が解決したら、世界中を旅行して周るんだ。カンボジアの困っている子供達のために学校を建てるんだ。アメリカの若い設計士を日本に招き、日本の文化や建築を学んでもらうんだ」と。依頼者の問題解決をお手伝いすれば、依頼者の夢の実現につながります。その様子を見ていくことは、コンサルタントとしてこの上なく嬉しいことです。
別の資産家の奥様の話です。奥様はベーカリーショップを持つことが夢でした。そこで、建築した賃貸マンションの一階にオーナー自らベーカリーショップをオープンすることにしたのです。本来であれば一階は他のテナントに貸したほうが収益性は高くなるのですが、奥様の夢とあらばあえて否定はせず、ベーカリーショップを造作しました。収益性より依頼者の夢の実現のほうが優先順位は高いからです。
また別のクライアントさんは父親から農地を相続した後、会社を辞め賃貸経営に専念することになりました。会社員時代はストレスで病を患い、けっして満足のいく生活ではありませんでした。ところが、相続後に思い切って農地を売却し、都心に収益不動産を購入して安定した収益を持つことができました。会社を辞めると暇を持て余すと思っていましたが、まったく逆で「日々やりたい事が沢山あり時間が足りません」とおっしゃっています。仕事のストレスが無くなり体調が良くなったお陰で、不動産管理の仕事と趣味をメリハリ付けながら楽しんでいます。
多くの依頼者はそれぞれに悔いのない人生を送りたいと考えてます。資産のポートフォリオを見直すということは、同時に人生設計そのものを見直すという事になります。不動産の運用を単なるお金儲けとして捉えているのではなく、人生の過ごし方やお金の使い方が先にあり、その手段として不動産の運用があるのです。不動産コンサルタントの仕事は単なる不動産にかかわるアドバイスだけでなく、依頼者の人生設計に直接かかわることができる、極めてやりがいのある仕事なのです。
■コンサルのポイント その26 面子を考慮する
コンサルタントの仕事はロジカルに数値で判断することとされていますが、実際の現場ではそうでもありません。なぜなら、意思決定をする依頼主の意思決定基準すべてがロジカルではないからです。
資産家は地主・名家・名門と言った立場を大切にします。名家としてその地域に恥じない立居振る舞いをしなければなりません。土地を簡単に手放すことや、貧相な賃貸住宅を建てること、街の景観を壊すような汚れたコンテナなどを設置することなどはご法度です。資産や家を守るという役割が課せられ、そのことを逸脱して投資家のように振る舞うことは、資産家としての面子を潰すことになってしまうのです。
そこで、登場するのが大儀名分です。相続から身を守るというような大儀名分によって、堂々と資産運用ができるのです。もしくは、相続が発生した時は堂々と土地を売却できるのです。最近では賢い資産家も多く、相続時に相続税額以上の土地を売却し、その資金で都心の優良資産に組み換える資産家も出てきました。
コンサルタントは経済合理性とは違った資産家の判断に日々悩まされていますが、そこはじっくり資産家の声に耳を傾けなければなりません。地域社会で生きているからには、地域とのつながりが一番なのです。
■コンサルのポイント その27 情報提供で信頼を獲得
紹介された見込みのお客様は、すぐに依頼につながるとは限りません。お客様はそれぞれ個別の事情があり、時期を考えて依頼します。したがってお客様がアクションを起こされる時期まで、関係を築き続けていくことが大切です。
私の場合の方法をご紹介します。一つは自社のセミナーです。現在進行中のお客様、ご紹介頂いたお客様、過去に依頼を受けたお客様、お取引先の方々に参加して頂いています。内容は相続関係や不動産投資の話の他、最近の市況などその都度新しい話題を提供しています。ゲストの講師を招き、より多角的な視点からの情報提供を心がけています。
セミナーを通じて、見込みのお客様は必要な知識が得られ、私どもにとっては当社の姿勢・考え方をお伝えして信頼を獲得する機会になります。また、過去のお客様の成功事例を紹介することによって、新規のお客様に安心して頂くことも出来ます。取引先や実務家・専門家の皆様から新しいお客様を紹介して頂くこともあり、セミナーには複合的な効果があります。
次に本やパブリシティに新しい情報を提供し、その記事を見込みのお客様にお送りしています。ブログを通じて常に自分を知ってもらうという努力もしています。
このように、お客様に新しい情報を提供しつつ、接点を持ち続けています。ただ単にお客様との顔つなぎをするのではなく、お客様の知識を高めると共に、コンサルタントへの信頼を勝ち取る地道な作業です。
本やセミナーではなくとも、年賀状、暑中お見舞いに何かお客様の為になる情報を入れることもできます。ブログなどは誰でも簡単にできるので、すぐに実践できます。定期的な情報提供によって、何かあれば思い出してもらえるようにしておく事が大切です。