連載「実践 事例で考える 不動産コンサルティングの進め方(13)」 ~中間経費を削除して、直接売買・直接発注により経営効率を高める~
福田 郁雄 株式会社福田財産コンサル 代表取締役
第13回 千葉県千葉市 Yさん
~中間経費を削除して、直接売買・直接発注により経営効率を高める~
千葉市にお住まいのYさん、定期借地権・土地の産地直売・大規模修繕のコントスラクトマネージメントなど、直接エンドユーザーや施工業者と契約を結び、中間経費の削除をしました。法人化を行なうなど、経営感覚の優れた資産家の事例を紹介します。
-依頼者の状況-
依頼者は…
Yさん 被相続人 父75歳(死亡) 母70歳
相続人 長男45歳
資産内容は…
千葉市に
①田、畑
②アパート、貸家、職人宿
依頼者の要望は…
①父親の相続が発生し、相続税が1億2,000万円。半分は物納とするが、残り半分の納税のために現金を捻出しなければならない。
②母親と自分で相続した土地と区画整理後本換地となって戻ってくる土地の活用法は何が良いか?
実際の展開は…
1.相続税の納税資金を捻出
Yさんは、千葉市で、土地活用以前は田を一町歩と広い畑をお持ちでした。その土地を、お父さんが昭和46~47年頃に半分位売却して、そのお金でアパートや貸家、職人宿などを建てられたのです。そしてお父さんが亡くなられ、お母さんとYさんで土地を相続されたのでした。
その相続税が、1億2,000万円。その内の半分は物納としましたが、残りの半分が払いきれません。そこで「どうしようか」ということになったのです。
そんな時にYさんと知り合い、相談を受けました。
私の提案は、次のようなものです。ちょうどその頃、相続税の納税のために土地を売却する場合は課税しないという特例が、3年間の時限立法で設けられていました。(以後、継続して適用されています)この特例を活用して、相続税の納税のために土地を売却する、ということです。
Yさんの資産の中には、売却すると納税額の2倍以上になるくらいの広さの土地がありました。そこで、その土地を6分割し、売却用には適度な広さの50坪の2区画を、そして広めの4区画は定期借地としたのです。
定期借地は同じ予算で、ゆったりと暮らせることを売り物にしています。だから分譲よりも広めの土地にした方が、借り手が見つけやすいのです。この2区画を売却することによって、納税資金をつくり完納することができました。
土地の売却は「産地直売方式」という手法で、業者に売却するのでは無く、業者とタイアップしてエンド価格で売る手法です。
定期借地権は販売代理方式とし、直接、賃貸人と土地の賃貸借契約を結びました。転売方式と異なり、保証金と地代が高くなる傾向があります。
2.2次相続対策は賃貸マンション
次に、区画整理されていた土地が、本換地となって返ってきたので、その内の1区画約100坪を売却しました。当時は、サッカーのワールドカップの準備期間だったので、会場やその代替地として県に売却すると、譲渡所得税が当時の税率である39%ではなく、20%に割り引かれる特例が設けられていました。この特例を活用して7,000万円で売却したわけです。
この資金は、すぐに使い道があったわけではないのですが、現金にしておかなければ有利な投資があっても機動的に動くことができず、チャンスを逃してしまいます。そんな思いもあって、現金化したわけです。
それから、お母さんが相続した約600坪をどうするかを検討し、この土地については3LDK32世帯の4階建てマンションを建てることに決めました。資金は、3億6,000万円。公庫から全額融資を受けました。建築費は1戸当たり1,100万円ですから、標準的な建築費です。また家賃も1戸当たり平均7~8万円ですが、個別で管理するのはYさんのお勤めもあり大変なので、月額240万円で一括借上げにしてもらいました。
それ以外にもこの時期には、活用しにくい土地をラジコン自動車のレースサーキット場として貸したり、職人宿を建て替えたりしました。
ここまでで、Yさんの土地活用の第一段階は終了です。
3.不動産投資で資産の拡大
第二段階は資産の拡大に着手しました。
きっかけは、Yさんの奥さんがお勤めを辞められることでした。
そこで、奥さんが会社を辞められる時に間に合わせて、賃貸経営を法人化して奥さんに給料を出すようにしました。所得の分散を図るためです。
不動産収入の10%程度であれば、この法人に管理費として支払うことが税務上も認められていますが、その10%が基本的に奥さんの給料となるわけです。
土地活用での収入から見れば、Yさんご自身もお仕事を辞めることは可能です。しかし、子どもがまだ小さいので、先延ばしにしています。その理由は「子どもが『お父さんのお仕事は?』とたずねられたとき、『家でブラブラしているよ』というのは教育上もよくないからね」と笑って説明してくれますが、確かに資産家にとっては、このようなことも大きな問題です。
法人化に続いて、第二段階では地下鉄駅から3分ほどの場所にあるマンションの購入を検討しました。そのマンションは、東京の近接地にある4階建てで17㎡のワンルームが38戸、2億2,000万円の物件です。
立地は申し分ありませんし、利回りも高い魅力的な物件でした。Yさんは通勤途中にも何度も建物を見に行き、「銀行が全額融資してくれるなら購入しよう」と決断します。
自己資金も多少はありましたが、空室を減らし長期安定経営を図っていくためには、補修が必要です。その補修のために自己資金は使いたいと考えたのでした。
しかし、銀行も「購入物件を担保にしただけでは全額融資はできない」という回答です。そこで、考えたのが自宅の一部を担保にするということでした。自宅は、何も利益を生んでいない資産です。その自宅を担保とすることで、利益を生む資産を手に入れるというのは、効率的な資産活用と言えるでしょう。
4.建物は管理が大切
ただ、このマンションについては購入後、管理会社をめぐって、少しトラブルがありました。その点も、紹介しておきましょう。
マンションの購入時点で、38室のうち5室の空室がありました。しかし購入契約をした翌日に「翌月、さらに8室が退去の予定です」と伝えてきたのです。その不誠実な対応に怒ったYさんは、すぐに管理会社との契約を解除。別の管理会社に変更しました。
しかし、13室が空室になったのは事実です。赤字にはなりませんが、利益は出ないというレベルです。そこで、本格的な大規模修繕に取り掛かりました。空室に関しては、全部フローリングに変更するなどし、その甲斐あって大規模修繕後には空室も全て埋まりました。
この大規模修繕も、Yさんによる直接手配によってコストを抑制しています。リフォーム会社に一括して発注するのではなく、コーディネーターを立てて、それぞれの業者に個別発注するわけです。コーディネーターを立てるのは自分で段取りする専門知識がないからです。
一般にリフォーム会社は、受注額の30%を自己の利益として考えています。そうして、各下請けの施工業者に発注するわけです。しかし、コーディネーターに工事費の10%をフィーとして支払って、施工管理全般を依頼すれば、約20%も安く大規模修繕工事が行えることになります。見積もりは「材料費がいくら」、「手間がいくら」と明確にはじき出されるのでドンブリ勘定が利かないわけです。透明性が高く、入札によってコストが抑えられ、プロ中のプロの工事管理全般が受けられる手法です。
現場の職人さんがニコニコ顔で話していました。「いつもより手間賃は少ないのに、手取りが多い、親方に抜かれないからなんだね。今日は美味しい酒が飲めるぞ」と。
Yさんは定期借地権の設定、土地の売却、大規模修繕のすべてについて代理人を立てています。いずれもプロの代理人が現場を直接仕切り、中間経費が掛からない仕組みとなっています。Yさんは衣を何重にもしたエビフライのようなやり方に対し、大きなムダを感じているのです。「大会社はブランドがあるから高くてよい」という発想では、このような賢い消費者から背を向けられる時代になってきたのかもしれません。
このマンションからは毎月の収入が190~200万円。そのうち、20年ローンの返済が110万円です。収入の全額を返済に回せば、10年で返済できます。今度は返済年数を短くしました。鉄筋コンクリートの建物であれば、30年返済という方法もあります。しかし、それでは10年経った段階でローンが思ったほど減っていないのです。20年返済であれば、10年経った時点で半分弱のローンが減っています。
将来金利が上がるかもしれないし、賃料の下落だってありえます。そんなときに、ローンの残債が少なくなっていればリスクが少ないと判断したのです。したがって、利回り優先で物件を求めました。Yさんは多少、見てくれが悪くとも、実質の利回りが高く、早く資金が回収できることが重要だと考えたのでした。
5.老朽アパートの建て替え
さらに、今後の計画が続いています。
その一つは、30年前に建てた古いアパートがありますが、この土地は道路付けがよくありません。隣の土地が売りに出ているので、これを購入すると道路付けがよくなり、資産価値が上がります。これをお母さん名義で購入する予定です。
もう一つが貸家の建て替えです。これもお母さん名義で全額融資を受けて進めます。そうすると、相続時には借入金の額はそのまま評価されますが、そのお金で建てた建物は3分の1になり、相続税を減らすことができるからです。Yさんの場合には、これで相続税がゼロになります。
それから、Yさんの場合には、そのままにしておくと、どんどん返済金が減っていき所得税が大きくなってしまいます。そこで資産を次々と増やしていき、所得税を圧縮することが有効になります。しかし、その場合でも、資産はいつでも売却できるようにしておくことが大切です。万一の非常事態にも備えておくことができるならば、この資産を増大していくことは大変有効な戦略になりえます。
加えて、法人の活用です。建物が古くなって固定資産税が低くなっていけば、所有権を法人に移すことが可能になります。これは、法人の所得税の上限が個人の所得税の上限よりも低いことによる所得税対策になりますし、さらに将来には子どもにその法人から給料を支払うことで所得分散を図り、所得税を軽減することも可能となります。
6.自宅が稼いでくれる
依頼者の感想
以下にYさんの感想を付け加えておきます。依頼者の視点が見えてきます。
特例の活用について
コンサルをお願いしたので、特例を上手く使えたなあと思います。特例の情報がないと使えないですし、情報があってもどのように使えば良いのか素人には分かりません。分かりやすく説明してくれたので、うまくメリットを享受できたと思います。
土地の売却について
土地を売却するのは勇気がいりました。が、先祖からの土地を売ってしまったけれど、その分は同じ面積の山でも買っておけば、ご先祖様も文句は言わないはずと、割り切って考えました。何もしなければ、先祖からの資産そのものを失うことになるわけですから。
法人の設立について
法人の設立によってマンション経営を戦略的な視点を持ってできるのが良いと思います。また、所得分散によって所得税対策が出来ますし、将来子供にも良い形で相続させてやることが出来ると思っています。
■コンサルのポイント その37 依頼者の集め方
いくら腕のある不動産コンサルタントであっても、お客様(依頼者)がいなければ腕のふるい様がありません。不動産コンサルタントがお客様を集める基本は紹介とリピーターです。
セミナーなどを通じてお客様を集める方法もありますが、そのまますぐに依頼へつながるとも限りません。大切なことは、見込みのお客様の数を増やしてベースを作ることと、次にその見込みのお客様を育成すること。このことを継続しなければ、お客様の依頼を受け続けることはできません。
ただ、この地道な作業が出来ないコンサルタント(営業)が多いのだと思います。ホットな依頼者を探し求め、目先のホットな依頼者だけに一生懸命エネルギーを注ぐのではなく、むしろ意識的に依頼者のベースを広げることと依頼者の育成にエネルギーを注いでください。常に人脈を広げ新しい紹介者を増やしていくと同時に常に紹介依頼を行なう日頃の地道な活動が重要なのです。
不動産コンサルタントは常に多くの人(出来れば、資産家や優秀な人)と出逢う事が大切です。事務所にこもっているのではなく貪欲に外に出て下さい。資産家や優秀な人は向こうからやって来てはくれません。
仕事での出会いだけでなく、参加したセミナーで一緒になった人、バーでたまたま隣に座り名刺交換した人からも、新しい人脈がつながっていきます。
特にセミナーなどは、自分と同じテーマに興味がある人たちが集まっているのですから、出会いという点でも参加する意味があります。セミナー終了後には懇親会もありますから、一人でも良いから新しい出会いを見つけると良いでしょう。紹介の質が大切だという人もいますが、実は量から質が生まれるのです。私も偶然に出会った方々から派生して仕事に繋がるという経験は何度もあります。そしてその縁がさらなる紹介となって質量とも広がるのです。
■コンサルのポイント その38 プロの逆算思考
ゴルフではまずは第一打を思い切り打って、ボールを遠くまで飛ばせばいいと考えるのはアマチュアです。プロは最初にグリーンのどの位置にカップがあるのかを想定し、どのラインから狙えば一番パットが決まるか考えて、そこへ持って行くために第二打のポイントを定め、そこに持っていくために第一打をうちます。どんな仕事もスポーツもゴールからモノをみて、逆算する思考をしている人がプロです。
コンサルの仕事は問題解決ですが、問題解決には二種類あります。①対処療法的問題解決②創造的問題解決です。①は目先の困っている問題を潰していくことです。空室になったので不動産業者を手配する、家賃を下げる、エアコンが壊れたので修理するなどです。多くの人は困ってから対策に乗り出します。②は将来の目標を立てた時に生まれる課題を解決します。コンサルの仕事はこちらの問題解決のお手伝いです。目標を立て、それを達成するための仮説を立て検証し実行します。
大半の人の生活パターンは①になっています。困った場面に遭遇しないと何が問題か分からないのです。成功する人のパターンは②です。創造し、自ら仕事を作っていきます。また②の思考を持った人は、不動産コンサルタントとしっかりタッグを組めるお客様でもあります。
日々の打ち合わせもゴールから考える思考は大切です。打ち合わせの10回先までストーリーを描きましょう。今日はここまでの合意を得よう。そのための話の展開はこうしよう。そのために必要な資料を準備します。成行きで打ち合わせをやっていると話がそれて、まとまるものもまとまらなくなってしまいます。
②の思考ができているかは日頃の話し方でもわかります。過去の経緯から順番に話す人は①のタイプ。結論を先に言い、聞かれれば根拠を言うのが②の人です。なお、最後のゴールがお客様や取引先・地域の人の幸せに置かれていると不思議にうまくいくものなのです。
■コンサルのポイント その39 あなたのテーマは“売り”は?
あなたの売りは一言で言うと何でしょうか?不動産コンサルタントの業務内容は様々な分野がありますが、自分の特徴・得意分野を作ろうと思ったら、一つのテーマを徹底的に追及することです。例えば、借地については何でもわかる、コンセプトマンションの実績は日本一、買換え特例の事だったら誰よりも詳しい、トランクルームのことだったら本が書ける、シェアーハウスについては第一人者であるなど。これはと思うテーマを見つけて徹底して深堀りし、そのテーマのことなら何々さんに聞けと言われるようになるまで詳しくなりましょう。
皆と同じようなことを広く薄くやっていても、その他多数に埋もれて実績を上げることはできません。ナンバー1とナンバー2の待遇は全然違います。狭い分野で構いません。出来るだけテーマを絞って、オンリー1ではなく、ナンバー1の分野をまず作ってください。ナンバー1になると、人も情報も集まってきます。小さいテーマほどナンバー1になりやすいので、なるべく小さなテーマに取り組むのがコツです。たとえば、相続税の還付だけをテーマにコンサルをしている方もいます。相続対策というテーマではなく、相続の還付というように絞り込むのです。
私の場合は、首都圏定期借地権事業プロデュース第一号となったので、定借の実務については福田に聞けと言われました。その様な経験を経て、第一人者になる大切さ・有益さを体感しました。
不動産コンサルタントとして様々な業務をやっていますが、売りは「資産の組み換え」に絞っています。資産の組み換えができるようになるために、FPを学び、相続を学び、不動産投資を研究していったのです。このように一つのテーマについて多方面からの視点を持つと、さらに専門性が高まり、売りが強くなってきます。
*『事例から学ぶ 安全・安心の相続と資産運用』(住宅新報社)に収録した事例を基に再構成しています。