連載「実践 事例で考える 不動産コンサルティングの進め方(17)」 ~不動産投資、土地有効活用、リモデリングによる収益向上策~
福田 郁雄 株式会社福田財産コンサル 代表取締役
第17回 東京都江戸川区Gさん
~不動産投資、土地有効活用、リモデリングによる収益向上策~
一通りの相続対策を終え、ひとまず落ち着いたGさん。相続した資産を活かして、収益性を向上させ、相続対策で膨らんだ借金の早期返済を目指しています。同時に、事業会社の繰越損失を活かすために、事業会社を縮小し、会社の性格を資産管理会社へ変えていった事例をご紹介します。
-依頼者の状況-
依頼者は…
Gさん58歳 飲食業経営
家族構成 妻50歳 資産管理業
資産内容は…
土地 2,000坪
マンション 一棟
店舗(レストラン、カフェ)
アパート2棟
寮 1軒
自宅
依頼者の要望は…
①相続対策が一段落しました。相続対策自体は成功したと思います。ところが名義人である妻が「借金の精神的負担が大きい」し、家賃は下落傾向だし、将来金利が上がるかも知れないので、早く相続対策で膨らんだ借金を減らしたいと話していますがどうすればよいでしょうか?
②飲食業を経営していますが、想定していたほどの売上が見込めていません。毎年の赤字が累積し、繰越喪失がある状態です。一方で賃貸収入は潤沢なので、所得税を多く払っている状況です。余分な税金は払いたくないので、なんとか税金を減らせないでしょうか?
コンサルタントから見た課題は…
①相続対策で建てた賃貸マンションの品質は素晴らしく、入居率も良いのですが、コストがかかりすぎで、収支が高くありません。10年先には、設備の減価償却費がなくなり、金利も減るので、所得税が増加し、手取り額がマイナスになることも予想されます。賃料も下落傾向にあるので、借金を減らすか、もしくは、収入を増やす手立てを考えなくてはならない。
②オーナーは賃貸マンションの一角で、自らレストラン経営を始めていましたが、繰越損失が膨らんでいます。事業会社の赤字と個人の所得の損益通算は不可能です。個人の所得を法人に上手く移せれば、損益通算は可能です。本来であれば、事業会社が個人の収益建物を買取れば良いのですが、借金が残っているうえ、赤字の事業会社で資金調達が可能であるか?
-事例の実際の展開-
1.中古の区分所有マンションをバルクで購入し収益向上
借金を減らすには、土地を売却することも考えましたが、相続税の納税のために相当規模の土地を売却しているので、もうこれ以上土地は減らしたくないということでした。そこで、土地の換金による借金の圧縮は止め、収益を上げる方策を考えました。
資産家の強みとして、別件担保が提供できるということがあります。別件担保を提供することにより、収益不動産を全額ローンで購入することができます。
オーソドックスに一棟モノの賃貸マンションを探してみたのですが、立地が良く、建物が新しく、利回りの良いものなどありません。
そこで、考えたのが賃貸になっているファミリーの区分マンションを複数、まとめて購入するということでした。首都圏の中で、東京、神奈川、埼玉、千葉に分散して、6戸の区分マンションを購入することにしました。
それでは、その収益性を検証してみましょう。
6戸で1.1億円、戸あたり1200万円弱です。家賃が11万円~15万円です。表面利回りで、8%~11%となっています。ネット利回りは、6.3%~7.4%です。このNOIの中には、修繕積立金も控除されているので、それを含めるともう少し利回りは上がります。これらの数値は一棟モノのマンションと比べても遜色ありません。むしろ、高いくらいです。
年間収入が980万円、年間経費が280万円、ローンの支払が年間450万円、差引手取りで250万円残ります。自己資金が1,600万円なので、自己資金に対する、投資利回りは15%となります。
中古区分ファミリーマンションのバルク買いは数々の優位性が見つけられます。ここで言う中古区分ファミリーマンションは原則40㎡以上の1LDK~3LDKです。一室2,000万円~4,000万円台が中心で、好立地にあり賃貸中のブランド力のあるマンションを投資対象としています。
従来、ある程度まとまった資金が調達できる方は、一棟モノの収益不動産を求める傾向がありました。ところが、不況期になると換金できない流動性の低いリスク商品となってしまいます。価格の安定した中古のファミリー賃貸マンションを複数分散して持つことによって、流動性の高いリスク分散された投資商品となります。
特徴としては以下のとおりです。
①分散投資ができる
様々なエリアに複数所有することにより、分散投資が出来ます。地震の影響も分散できます。あたかも金融商品のようなポートフォリオ運用ができます。
②流動性が高い
賃貸中は個人投資家に、空室時には実需向けで売却できるので、あまり不動産市況の変化に影響を受けません。
③立地が良い
分譲マンション立地です。厳選された立地といえるでしょう。
④品質が良い
大手マンションディベロッパーのブランドマンションです。
⑤価格変動が少ない
ファミリーマンションは築10年を超えるとそれ以上下落しにくい傾向にあります。
⑥入居率が高い
賃貸人が家族中心で世代的に幅広く、賃貸期間も長い。
⑦建物管理がラク
建物維持管理(ハード)は管理組合にお任せできます。他の入居者が所有権分譲の入居者なので、価値を維持しようとするインセンティブが働きます。
⑧賃貸管理もしてくれる
入居者とのやり取りは賃貸管理会社にお任せできます。
⑨相続税の分割対策に使える
相続人に一戸ずつ分割できます。一棟モノを共有で持つと、不良資産となってしまいます。
⑩買い換え特例の利用ができる
賃貸しているので事業用資産の買い換え特例が使えます。また、買い換え特例の予算の空き枠としての調整弁となります。
いかがでしょうか?今や一棟モノにこだわる必要はありません。しいて難点を挙げるとすれば、ローンが付けにくいことですが、資産家であれば問題ありません。このあたりの銀行の土地担保主義の発想は中々変わりません。ちなみにGさんは古くなった寮を別件担保に入れて融資をひき出しています。
2.駐車場にトランクルームを新築
先ほどの区分マンションのバルク買いで別件担保として活用した寮が空いてしまいました。企業のリストラで撤退したのです。駐車場が併設されていたのですが、昨今、車を持つ若者が減り、今後の寮の運営においては不要であると考え、有効活用することにしました。
場所はターミナル駅から徒歩9分なので、申し分ありません。しかし、奥に細長い不整形土地だったので、アパートや店舗には向いていません。しかも70坪弱の狭い土地です。本来でしたら、駐車場が関の山です。駐車場では頑張って8台分です。せいぜい月8万円の収入にしかなりません。これでは、土地の税金を支払って終わってしまいます。コンテナを置くことも考えましたが、街の景観を壊すのはイヤなのでこれも止めました。
そこで、最近増えてきているトランクルームの新築を提案しました。地型、立地、規模がぴったり合います。また、近所は分譲マンションの建築も増えており、トランクルームの利用者も見込め、市場性にも合致していると判断しました。
容積率を活かすのであれば、3階建てを建てることになます。まずは、3階建てエレベーター付の重量鉄骨増で計画をしてみました。112坪、91ブースのトランクルームが建てられます。総額7,000万円で、年収880万円、12.5%の利回りが確保できます。運営費は管理会社が全て見るうえ、一括借り上げの契約となるので、ネットの利回りです。アパートの表面利回りで言えば16%相当になります。そこそこ高利回りの運用方法となります。
ところが、新に7,000万円の借金を積み増しするというのには抵抗がありますし、3階建てでは寮の日当たりを悪くしてしまうので躊躇しました。
そこで、次に考えたのが、2階建ての2×4のトランクルームです。今まで床過重のことを考え重量鉄骨で建築していましたが、2×4で準耐火構造にして、床を補強すれば建てられるのではないかと考えたのです。
2階建てでシミュレーションしてみると、床面積が70坪、70ブースが取れました。建築費は4,000万円です。年収550万円、13.8%とむしろ利回りが上がりました。借金が4,000万円と少なくなるのが何よりです。20年ローンで返済しますが、毎月差引25万円の手取りとなります。手取りベースで見ると、3階鉄骨造となんら変わりません。容積率200%の土地はなんでもかんでも容積一杯に建てるという発想は間違いです。投下資本が少なく、手取りが多い土地活用が正解なのです。
従来、オフィスのリモデリングや郊外のコンテナ利用のトランクルームが主流でしたが、このように新築で最初からトランクルーム専用の建物を建てることも、有効な土地活用となりました。
以下にトランクルームの有効活用について解説いたします。
トランクルームは従来のマンションやアパートに取って代わる、土地や建物の新しい有効利用方法です。大都市圏を中心に収納に対するニーズが拡大しています。生活の向上によって、日本人の所有するモノの量は増えましたが、住居スペースは広がらないので保管スペースがありません。
この30年間で米国のストレージ市場は大きく成長し、日常生活の一部として各家庭に深く浸透してきました。利用割合は、米国では10世帯に1件です。それに対し、日本では250世帯に1件の割合です。住居スペースが狭い日本においては、収納が生活上の重要課題であることには疑いがなく、国内市場の大幅な拡大が期待されます。
オーナー側のメリットは、①低投資で始められ②高利回りで③短期回収が可能④10年の借上げ保証が出来る点です。トランクルーム利用者とは一時使用契約を締結するので、借家権はつきません。収納スペースをレンタルするだけなので、退室クレームや水廻り・近隣トラブルもありません。一度利用するとなかなか手放せなくなり、解約率が非常に低いのも魅力です。
利用者は手軽なレンタル収納スペースとして24時間利用できます。セコム等でセキュリティ体制が完備し、24時間365日、利用者の入退出をチェックし、緊急時には30分以内に現場へ担当者が駆けつけます。エアコン完備で、湿度管理も問題ありません。小額な資金で収納問題が解決できることが魅力となっています。
3.寮をリモデリングしシェアハウスに
企業一括貸しの寮の退室によって、月130万円の損失となります。家賃を75万円まで下げても新しい借主は決まりませんでした。月額55~60万円ならという話はありましたが、それではやっていけません。10カ月近く空室が続きました。
これは、企業が余分な資産を持たない方針になってきたからです。昔は人が資産で、人を確保するために企業の寮がありましたが、今はアセット・ライトの時代です。企業は余分な資産を持とうとしません。寮は一旦退出となると、まるまる家賃が入らなくなってしまうのが大きなリスクです。
企業向け一括寮を学生寮として個別に貸したとしても、家賃3万5千円~3万8千円が精一杯です。企業に貸すよりはましですが、70~75万円/月にしかなりません。
すでに寮の時代は終わったと判断したGさん。寮での活用は止め、他の方法を検討することにしました。教室にしたり、老人ホームにしたりと考えられるものを検討してみましたが、なかなかしっくりくるものがありません。
そこで、私どもの方でシェアハウスへの転用をお薦めしました。今はインターネットでたくさんの運営会社が見つけられます。3~4社に声をかけ、最も条件とコンセプトの良い会社を最終的に選定しました。
20室だったものを26室に増やし、シェアハウス用に改築しました。家賃は総額6万円×26室で、月収156万円です。3年間の業務委託で、企画・管理料として2割管理会社に入れます。ネットで120万円の月収です。費用をかけずそのまま企業に一括で貸す場合では、60万円の月収だったので、倍の収入になります。総額4,000万円の改修費用がかかりましたが、年間720万円のネット収入が増えるので、利回りは18%の投資ということになります。
東日本大震災により、給排水が痛んだこともあり給水管を取替え、下水が前面道路に通ったので、下水管にも接続しました。外壁も塗り替えるなど、大規模修繕が出来たので、建物の寿命も延びました。
実はこのリモデリング工事はオーナー自らが、現場管理となり施工しました。かつて建材メーカーの商社に在籍していたので、資材の手配はお手の物です。分離発注して、元請けや下請けに払うべき経費を省略することができました。
本来でしたら、4,000万円程度かかる改築を、Gさん自らのコンストラクション・マネジメントにより3,000万円で済ませることが出来ました。
また、自らコーディネートしたので、細かい点にも様々な配慮をすることができました。一例をご紹介しましょう。エアコンは省エネタイプに付け替えました。一台、4万5千円です。照明はLEDライトに取り替え、無線LANも入れました。窓も二重サッシにしています、外の音も気になりませんし、結露の心配もありません。冷暖房効果も抜群です。
インテリアも若者向けに変更しました。内覧会前のイラストだけで、8人の入居者が決まったそうです。リビングには大きなテーブルや、ソファ、50インチテレビがあるのでみんなで交流できます。コンセプトは"Let's
cooking!"。大型“アイランドキッチン”が目玉です。インテリアはプチホテル風です。全身カバーのミストシャワーもあり、個室の7畳間にはベッド、デスク、チェア全てセッティングされています。寮時代の内装も、活かせるものはそのまま活かしました。
外壁は一部サイディングに張替え、デザインを一新しました。シーリングは昔のままですが、補修をかけ、窓にはひさしを全部つけました。冷蔵庫は店舗で使っていた大型業務用冷蔵庫です。容量はたっぷりです。冷蔵庫の騒音対策も施しました。冷蔵庫の扉には蝶のシールをあしらいアクセントを付けています。もちろん、通常のシェアハウス用小物はすべて完備させました。
シェアハウスが万が一失敗したとしても、元の寮の一括貸しができるように改築を考えて行なっているのです。リスク対策を考えられるGさんは立派な経営者であり、投資家です。
以下にシェアハウスについての説明を付け加えておきます。
シェアハウスとは、最近出てきた住宅のスタイルです。一つの物件で複数の入居者がトイレやお風呂、リビングルームを共有して暮らす共同住宅です。こう聞くと、あまりお金のない学生や若者が住むところと言うイメージを持つかもしれませんが、実際は違います。年齢は20代前半から30代前半が8割近くを占め、就業形態も正社員が一番多くなっています。入居者は賃料が安いということ以外にも魅力やメリットを感じて、住んでいるようです。
住居者のメリットは①敷金・礼金がいらない②家賃が安い③家具や家電が備え付けなので、身軽に引っ越せる④複数人数で住むことによりセキュリティ面で優れている⑤コミュニティがあるなどです。テーマを設けられたシェアハウスもあり、「本格的厨房施設完備で、料理好きが集まる」「バイク置き場無料。バイク仲間で休日にツーリング」などコミュニティ機能もユニークです。場所も住宅街から、ワンルームやマンションで住むには賃料が高い都心の一等地にもあるので、その点も大きな魅力です。
オーナー側のメリットは①初期投資を抑えることが出来る。キッチン・お風呂などの水廻りを集約出来るので、施工コストが安く済みます。②収益性が高い。一軒家やワンルームよりも多くの戸数を確保できる上に、賃料はワンルームマンションを変わらなくなってきています。③空室リスクが分散できる。複数人に賃借しているため、一人が退去しても稼働率への影響が小さくて済みます。デメリットは①気軽に引っ越せるので入居期間が短い②自分で管理する場合は手間がかかるなどです。入居期間については、安さ以外の魅力を付加し、入居者の満足度を上げることで長く入居してもらうことも可能です。管理の手間については、シェアハウス経営を専門にしている企業に企画・管理運営をお任せすることも可能なので、アウトソーシングするのも手です。
4. 事業法人の性格を管理法人へ変えていく。
依頼者のもう一つのご要望は、事業法人の繰越損失の有効活用です。個人は利益が出て所得税・住民税を払っている一方、事業法人の赤字はそのままなので、損益通算が出来ていないことに対する不満がありました。
そこで、事業会社の定款を変更し、賃貸管理業を追加しました。司法書士に依頼すれば良いだけのことです。そのうえで、今度は寮の名義を法人に変えることにしました。名義を変えるためには、売買契約が必要です。そこで問題になるのが、価格です。身内同士だからといって自由に決めることはできません。原則、第三者と取引する時価での売買です。とはいっても時価は明確ではありません。個人の譲渡税をゼロにするためには、簿価以下で売却しなくてはなりません。また、低額譲渡とみなされ、認定贈与の課税がされないようにしなくてはなりません。相続税評価額での売買であれば、この点はクリアーできます。
顧問税理士と打ち合わせをしながら、最終的には簿価相当で売買契約を締結しました。簿価は相続税評価より高いのでこの点でも問題はありません。むしろ、簿価が高いことは、減価償却が多く使えるという点では有利となります。
土地は借地とします。無償返還の届出を提出して、権利金の認定課税がかからないようにしておきます。地代は固定資産税の2~3倍程度にしました。きちっと借地権売買契約書を作っておき、税務署にも説明できるようにしておきます。
また、先程のトランクルームも法人名義で建てました。土地は同様に借地権となります。資金調達は、寮については分割で支払うことにしました。利益の中から払っていきます。万が一払えなくても、身内なので未払いも許されます。
トランクルームと寮のリモデリング費用は銀行から融資を受けました。問題は赤字会社が融資を受けられるかということです。一般的には不可能なので、個人と法人が一体であるというアピールと事業の採算性の良さをアピールすることにしました。それにしても赤字会社は赤字会社でしかありません。そこで、地元銀行2行に声をかけ、「融資が難しければ、個人の融資を他の銀行に切り替えることもやぶさかではない」とせまり、ある程度の駆け引きをしました。資産家で大口の融資が引上げられてしまったら、困るであろうことは想像することができます。
それらの、作戦が上手く当たり、どちらの銀行からも融資の内諾を受けることができました。結果的には融資条件の良い方に決定しました。これらの交渉をオーナー自ら行うことは、当事者であるのでやりづらいでしょう。コンサルが中に入り、ワンクッションとなることで交渉がスムーズに行くようです。
依頼者の感想
以下にGさんの感想を付け加えておきます。依頼者の視点が見えてきます。
中古区分マンションの購入
良いお話を持ってきて頂けたと思います。一棟マンションだと、持つ満足感はありますが、リスクが大きいですね。区分中古マンションは、場所、値段などを分散して組み合わせてくれていると感じました。ミドルリスク・ミドルリターンの投資が当てはまるのではないでしょうか?利回りも悪くなく、換金性もあります。
今回は6戸購入しましたが、もう少し購入しても良かったと今は思います。こういう話がもらえたのは、コンサルタントと付き合ってきたお陰です。今は値段が上がってしまってうまみが無いようなので、タイミングも合いました。
融資が受けられ
銀行の融資の交渉をコンサルタントと二手に分かれて出来たのは良かったなあと思っています。A銀行とB銀行で検討していましたが、お互いが競う形になり、結果的に融資が伸び、金利も下がりました。役割分担が大変上手くいきました。
私自身は借金の重みは感じていません。良い借金だからです。ですが妻は感じているようです。なるべくなら、早く返したほうが良いのでしょうが。
コンサルとの付き合い方
今回はコンサルに完全に頼りきるのではなくて、一定の心地よい距離感がありました。
おそらく普通のコンサルタントに頼むのであれば一旦入り込んだら、囲い込まれるイメージがありますが、そんなことは全然ありませんでした。一緒に考え、一緒に進められました。こちらのアイディアはしっかり活かしてくれ、自分で決めたという実感があるので、納得して出来ました。サポートとして側面から情報提供してくれたのは、とても助かりました。
最後に、
依頼者のGさんは資産管理業をしっかり行っていました。資産管理業の人はそれ自体が仕事なので、コンサルタントはその人の仕事を奪ってはいけません。サポート役に徹する、情報提供に徹することが必要だと思います。その依頼者が求めている立ち位置でコンサルを行うことも必要です。コンサルタントは頼りなくてもいけませんし、でしゃばり過ぎてもいけない、依頼者との距離感が重要です。
■コンサルのポイント その46 ハーフプライス
内需の代表格である不動産業界にもハーフプライスの波が押し寄せています。
賃貸で言えば、手数料半額も珍しくなくなってきました。通常のワンルームマンションの半額で住むことのできるシェアハウスも市民権を得てきました。地方から来た学生などは、ワンルームマンションに2人で住んでハーフプライスを実現させています。オフィスや店舗では、今テナントが出て行くと募集賃料が半額近くになってしまう物件も出てきました。
建売ではパワービルダーがハウスメーカーのハーフプライスでシェアを伸ばしています。戸建住宅でもハーフプライスの実現によって戸建貸家が拡大しています。
製造業で始まったハーフプライスの流れは、アジアの国々の経済発展がベースにあります。品質が良くて安いものがアジアの他の国々で作られるようになり、製品の値段は見る見るうちに下がっていきました。人件費が安いだけでなく、最新設備で作っているため性能も高いのです。アジア内でひと・もの・かねが頻繁に行き交い、経済の一体化が進んでいます。同時に人件費はアジアの低い人々のほうに引っ張られています。
もともと、人件費と家賃は粘着性が高く変動しにくいものでしたが、やがて製品と同じようにハーフプライスの波が押し寄せてくるかも知れません。世界が一体化した経済は、国内の不動産資産にも影響を与えるようになってきました。従来の延長線で土地活用を行なえば失敗します。今後は世界を含めた時代の変化を先取りするコンサルタントが活躍するでしょう。
■コンサルのポイント その47 結論を押し売りしない
コンサルを依頼してくださるお客様は、自分自身でも考えられる方が多いです。自分でも考えた上で、やはりプロに頼むのが一番賢いと分かりコンサルに依頼してくださるのです。そのような依頼者にはコンサルタントは自分の考えを押し売りしません。もちろんコンサルタント自身の考えは持っています。ベストな提案方法はこちらから情報提供はしますが、依頼者に気づいてもらって、あたかも依頼者自らの発見した様に感じ、判断してもらうことです。
似たようなことはサラリーマン社会にもあります。役員や社長に提言する時も自分のアイディアをただ押し付けるよりは、社長に情報提供をして、社長が思いついたようにします。すると、社長もその提案を推進してくれます。自分の意見を採用してもらう為に、提案の方法を考えます。それが、組織を円滑に運用する上手な方法です。
そもそも人は、人から強制されたくありません。自ら判断して、自ら結論を出して、自分で実行に移すということが重要です。自分で思いついて自分でやろうと決めたことは、積極的に前向きにやるものです。強制はせずに結果的にコンサルが思っている方向に進んでくれれば良いのです。ただ、決めるのは依頼者ですが、依頼者任せではだめです。コンサルタントも結論を持っていて、プロとしてこうした方が良いと言わなくてはいけません。
伝え方は、①事実データで伝える。②質問していく。の2点です。質問をすることによって、依頼者に考えてもらい、頭の中を整理してもらいます。質問の仕方が大切です。「売却して、借金も返して、身軽にしましょう」と言うのではなく、「もし売却して借金も資産も無くなって身軽になったとしたら、どんな生活を送れると思いますか?」という言い方にして、相手に想像してもらいます。
偉くなると、つい上から目線でこうした方が良いと言いたくなりますが、相手の反発をくらっては、せっかく良いことを提案しても採用されません。人間は感情の生き物です。質問形式で伝えることによって、受け入られやすくなります。慣れないうちは言いたいことを予めまとめて、結論を全部質問形式にしておくのも手です。
■コンサルのポイント その48 相手のメガネをかけてモノを見る
依頼者に提案をするときには、相手の立場でモノを見ることが非常に大切です。人はそれぞれ立場が違います。立場、前提条件が違えば、それぞれ最善の案を出そうという最終目的は一緒でも、違う結論が出てきます。どんなに経済合理性があっても、相手のウォンツとずれていては、その提案は採用されません。
相手の立場・要求を把握するためには、相手の発言をよく聴くことです。そして、相手がどんな考えからその発言をしているのかを考えます。その際に、まず相手の考えを受け入れる、正しいと思うことがポイントです。その考えは合理性が無いなどと、切り捨てては駄目です。コンサルタントがよく陥るミスは、理詰めに分析し、頭ごなしに間違っていると指摘してしまうことです。
相手の話をよく聴き、どうしてその発言に至ったかを掘り下げていくと、相手が何を大切にしているのかが見えてきます。家族との生活を大切にしたい、経済的に余裕のある生活がしたい、妻の希望を第一に考えたい、家のメンツを守りたいなど、それぞれコアの大切なものがわかります。そして、提案する際に、その人のコアを踏まえた提案をすれば良いのです。相手の視点とコンサルの視点を合わせて考えられれば、発展的な提案も生まれます。
大切にしているものは無意識すぎて、依頼者自身も気づいていないかもしれません。そこを掘り出し、相手に沿った提案をします。相手のメガネをかけてモノを見る事の繰り返しが、自分に新しい発想や、視野の広がりも与えてくれます。